16話〜万理side〜 ページ17
知っていた。
Aが何を、考えて。何を、思っていたのか。
俺は若干シスコン気味だけど、Aは兄の俺からみてもガチガチのブラコンだからよけいだろう。
「……スキャンダルネタを、その人に渡す?」
「……兄さんが大事にしていたものを、私は壊せない。……けど、私……。……百瀬くんの声が出ないって話を聞いた時、"ざまあみろ"って思った」
この様子は、反省しているな。そして自己嫌悪している。
「……私、百瀬くんが嫌いなんだ。多分、だけど」
あの人はいい人だから。
私のことを心配してくれている。
そう思っているんだろう。
けど、思っているだけだ。
「……百くんと話すのが怖いなら、俺が付き添うよ。千と話すのが嫌なら、俺が話すよ。だから、向き合いなさい」
Aは、止まったままなんだ。
五年前から。進んでないんだ。
「……A、俺から質問がある」
「なに……?」
「空と海は、誰の子だ」
「私と晶人さんの子」
即答だった。
晶人さん……。神原晶人なら、確かに「双子の子供が産まれた」と発表した。
神原晶人。職業は小説家。
2年前、事故により死亡。享年は30歳。
「……あの日、四人で出掛けようって約束していたの。でも、晶人さん、急に打ち合わせが入ってね。……空と海を連れて、晶人さんの会社の近くで待ち合わせしていたの」
知っている。
ニュースで流れていた。
神原晶人は、車に乗っていた。
信号を無視して道路を歩いていた老人を避けようとしたところ、電柱にぶつかった。
救急車に運ばれたが、死亡が確認された。
若い大物作家が死んだのだから、ニュースにもなる。
「晶人さん、私を愛してくれていたから。私は、愛せていたか不安になっていたの」
「どうして?」
「……千斗を、忘れることができなくて」
「……」
A。
すまない。それに関しては俺は何も言えない。
だから、何も言わないよ。
「……千斗、千斗。って呼ぶの、まだ抜けきれないんだ。……だって、私、千斗が好きだったのは本当だし。今も好きだから」
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作者名:通りすがり | 作成日時:2019年7月8日 9時