第壱話『銀狼と氷柱の女神』 ページ49
『……』
あついあつい日
だれかがそう云った。
太陽がジリジリと地面をやきつける
“もうしょ”という名前の日だという。
「……A」
『あ、福沢さん』
「異能を遣ったのか」
『……?うん、遣ったよ!何で?何で知ってるの!?』
檻の中にいた少女が嬉しそうにそして興味津々に銀狼に近付く。
『あ、聞いて!今日って“もうしょ”って名前の日でしょ?』
「……あぁ、“猛暑”だった」
『……
何で過去形なんだろうと少女は悩んだが、瞬時に理解した。
少女が異能を遣ったからあついあつい日では無くなったのだ。
『あーあ、せっかく“もうしょ”だったのに。悪いことしちゃったな』
「……辛くないか?」
『……?つらい?』
銀狼は目の前の少女の頭を撫でた。
慥かに、今日は猛暑の予報だったのだ。
「……あれ程の異能を遣ったんだ。疲れていないか」
『だいじょーぶ!私は強いもん!』
しかし少女がヨコハマの街を覆う氷の結界のようなものを張った為、昼間だけ太陽の熱が街に届かなくなった。
「ならいいのだが」
『なんで福沢さんが悲しそうなの?』
そうした理由は簡単。
ヨコハマに異国の殺人結社が来るという情報を入手した政府が、奴等がヨコハマの街に出入り出来ぬようにと少女の異能を遣ったのだ。
「お前はもっと我儘を云っていい」
『何で?』
「仕事を確りと成し遂げたからだ」
そのお蔭でその殺人結社を捕らえることが出来たのだ。
それなのに政府は少女に結果を伝えないし褒美をやらず放置。
『……わがまま云っても意味ないよ』
少女が困った顔で笑った。
銀狼は怒りが込み上げた。
何故、この少女が粗末な扱いを受けなければならないのか。
少女は褒められる事も、仕事を成し遂げた達成感を味わう事も、自分の功績を称えられることも……何一つ知らない。
「……A」
『なぁに?』
「よく頑張った。お前のお蔭で悪人を捕らえることが出来た」
少女はキョトンとして嬉しそうに笑った。
銀狼はそんな少女の頭を優しく撫でた。
「……いつか必ず」
『なにか云った?』
「……いいや、何でもない」
銀狼は誓った。
必ず少女をこんな狭い檻から連れ出して外の世界を見せようと。
それが出来るのは銀狼しかいない。
まだ見ぬ未来を想像し、銀狼は静かに笑った。
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らしろ(プロフ) - 有栖川.さん» コメントありがとうございます。可愛いと言っていただけて嬉しいです!更新頑張ります、引き続きお楽しみ下さい! (2020年5月26日 21時) (レス) id: 2b7c5de986 (このIDを非表示/違反報告)
有栖川.(プロフ) - 織田作、、可愛い…。更新頑張ってください!! (2020年5月26日 19時) (レス) id: 365395094b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:らしろ | 作成日時:2019年6月21日 18時