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(uno-side)
宇「こんにちは」
千「こんにちは」
以前会った時と変わらない穏やかな笑みを浮かべて。
千「貴女は確か…詩ちゃんの、」
宇「はい、仕事仲間の宇野実彩子です。今日は千弦さんにお願いがあって来ました」
千「お願い?」
落ち着いた様子の千弦さんに少しホッとして、隣にいたにっしーに視線を送る。
宇「その前に紹介したい人がいるんです」
西「初めまして、西島隆弘です。宇野と同じく、詩の仕事仲間です」
千「そう……貴方も音楽の仕事をしているのね」
宇「……」
この人と話していると、いつももどかしく感じる。
──ここまで認識できるのに、肝心の詩を目の前にすれば途端にダメになる
宇「……今日、詩がライブをするんです」
千「?……コンサートの事かしら。1人で?」
宇「……詩は今、声楽をやってません。だけど彼女は今も歌い続けています」
ゆっくりと目を瞬かせた千弦さんから表情が消えて。
宇「っ……詩は、千弦さんに歌を聴いてほしいそうです。だからお願いします。今日のライブに来て下さい」
その真っ暗な眼差しに、背筋が凍るような気分になるけど。
目をそらさずに告げてから、頭を下げた。
千「詩ちゃんが、私に…?」
ポツリと呟いた千弦さんは、笑顔を浮かべる。
千「私は昔、あの子の歌を否定したのよ」
それは決して、明るい笑顔でも。
優しい笑顔でもない。
千「ずっとあの子が怖かった。……父親似の奏とは違って、私の血を色濃く受け継いだ詩ちゃんが……あの子の歌声が怖かった。……あの日、その恐怖を確信したの」
すべてを諦めたような、そんな悲しい笑顔。
千「そんな私が…………あの子の歌を聴く資格なんて、もうないわ」
そう言って、私達に背を向けたしまった千弦さんに、胸が痛む。
──この人はこの人で、ずっと苦しんできたんだ
詩への愛情がないわけじゃない。
だって、愛情がないのなら。
詩に父親と会わせたいなんて思わない。
詩の事を高倉さんに託したりなんてしない。
宇「っ、あの…」
西「資格なんてあってたまるかよ」
口を開きかけた私よりも先に。
西「母親が娘の歌を聴いて何が悪いわけ?詩もそうだけど、あんたも変に遠慮する必要なんてないでしょ」
宇「ちょ、」
思わず制止しようとするけど、にっしーのあまりにも真っ直ぐな眼差しに、口をつぐんだ。
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海(プロフ) - くみさん» ありがとうございます!楽しんで頂けて、とても嬉しいです♪しかもかなり長かった筈なのに一気読みして頂いたとは…!本当にありがとうございます!マイペース更新ですが、これからも精一杯頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致しますm(__)m (2019年6月22日 8時) (レス) id: 00727ba42b (このIDを非表示/違反報告)
くみ(プロフ) - ものすごく楽しいです!!昨日から一気に読んでしまいました!これからも楽しみにしてますね! (2019年6月21日 12時) (レス) id: 9ac3551b76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海 | 作成日時:2019年3月24日 19時