検索窓
今日:5 hit、昨日:41 hit、合計:159,533 hit

31 ページ32

(uno-side)


宇「こんにちは」


千「こんにちは」



以前会った時と変わらない穏やかな笑みを浮かべて。



千「貴女は確か…詩ちゃんの、」


宇「はい、仕事仲間の宇野実彩子です。今日は千弦さんにお願いがあって来ました」


千「お願い?」



落ち着いた様子の千弦さんに少しホッとして、隣にいたにっしーに視線を送る。



宇「その前に紹介したい人がいるんです」


西「初めまして、西島隆弘です。宇野と同じく、詩の仕事仲間です」


千「そう……貴方も音楽の仕事をしているのね」


宇「……」



この人と話していると、いつももどかしく感じる。



──ここまで認識できるのに、肝心の詩を目の前にすれば途端にダメになる





宇「……今日、詩がライブをするんです」


千「?……コンサートの事かしら。1人で?」


宇「……詩は今、声楽をやってません。だけど彼女は今も歌い続けています」



ゆっくりと目を瞬かせた千弦さんから表情が消えて。



宇「っ……詩は、千弦さんに歌を聴いてほしいそうです。だからお願いします。今日のライブに来て下さい」



その真っ暗な眼差しに、背筋が凍るような気分になるけど。



目をそらさずに告げてから、頭を下げた。





千「詩ちゃんが、私に…?」



ポツリと呟いた千弦さんは、笑顔を浮かべる。



千「私は昔、あの子の歌を否定したのよ」



それは決して、明るい笑顔でも。


優しい笑顔でもない。



千「ずっとあの子が怖かった。……父親似の奏とは違って、私の血を色濃く受け継いだ詩ちゃんが……あの子の歌声が怖かった。……あの日、その恐怖を確信したの」



すべてを諦めたような、そんな悲しい笑顔。





千「そんな私が…………あの子の歌を聴く資格なんて、もうないわ」




そう言って、私達に背を向けたしまった千弦さんに、胸が痛む。



──この人はこの人で、ずっと苦しんできたんだ



詩への愛情がないわけじゃない。



だって、愛情がないのなら。


詩に父親と会わせたいなんて思わない。


詩の事を高倉さんに託したりなんてしない。









宇「っ、あの…」


西「資格なんてあってたまるかよ」



口を開きかけた私よりも先に。





西「母親が娘の歌を聴いて何が悪いわけ?詩もそうだけど、あんたも変に遠慮する必要なんてないでしょ」


宇「ちょ、」



思わず制止しようとするけど、にっしーのあまりにも真っ直ぐな眼差しに、口をつぐんだ。

32→←30



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (87 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
244人がお気に入り
設定タグ:AAA , メン入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - くみさん» ありがとうございます!楽しんで頂けて、とても嬉しいです♪しかもかなり長かった筈なのに一気読みして頂いたとは…!本当にありがとうございます!マイペース更新ですが、これからも精一杯頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致しますm(__)m (2019年6月22日 8時) (レス) id: 00727ba42b (このIDを非表示/違反報告)
くみ(プロフ) - ものすごく楽しいです!!昨日から一気に読んでしまいました!これからも楽しみにしてますね! (2019年6月21日 12時) (レス) id: 9ac3551b76 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2019年3月24日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。