【CS】伊吹チグサ【終末戦記】 (ページ13)

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□ 伊吹チグサの手記ページ13

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かあさんへ

はやくよくなってね！
おとうさんはカレーしかつくってくれないからいやです
おうちでちゃんとるすばんしてるから
はやくかえってきてね

ちぐさより

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拙いひらがなの文字が踊る手紙を自室の勉強机の引き出しの奥深くから見つけた。懐かしさに浸りたかったが、そんなことをしても母は帰ることはない。誰よりも分かっている。

ポケットに渡せなかった手紙を突っ込んで立ち上がる。クーラーもつけずに部屋を掃除しようなんて間違いだった。暑くて死んでしまいそうだ。額に滲む汗をTシャツで拭いながら、クーラーのリモコンを手探りで探す。散らかった部屋がこれ程までに憎く感じたことは無いだろう。

｢チグサ｣

ドアの向こうから、低く鬱蒼とした声が聞こえた。
父が呼んでいる。行かないと。
部屋の隅に置かれた姿見で自分の顔を見直し、ニッと口の端を上げ、笑ったのを確認してからドアを開けた。

｢どうかした〜？父さん｣

オレの顔を見て目元を歪めるのが視界に映った。
父はオレのこと本当は好きじゃないんだよねぇ。知ってる。

｢昼飯は冷蔵庫にあるから先に食べていーよ｣

母さんが死んでから父は変わった。
温厚で優しかった父はもう死んだと割り切って生きてきた。
仕事もやめ、目元には隈ができてやせ細った父を見て、こんな風にはなりたくねぇなぁとつくづく思う。
父のとぼとぼと階段をゆっくり降りていく姿を見送ってから、クソ暑い中、窓を全開に開きポケットから煙草を取り出した。
じわじわと煙草の先が燃えてゆくのを見ながら、汚い息を吐いている。

オレの顔は母さんにそっくりだと言った。
成長すればするほど父はオレを見ては急に笑を零し、泣き出し、黙り込み、殴りかかってくることもあった。精神的な病気になったことは一目瞭然だった。

幼い頃の家族写真を見ても、オレの顔が母に似ている気はしなかった。家族と似ているかなんて人から見ないと分からないもんだもんなぁとまた汚い息を吐く。

病室で外を眺めている母はいつも笑ってて、死に至るような病気だなんて知らなかったんだよ、オレ。
父さんもすぐに帰ってくるさって言ったんだよ。
いつも学校帰りには決まって病院に走って、母さんに会いに行ってたのに。オレには最期まで何も教えてくれなかった。

手紙も結局渡し損ねたままだったなぁ。

今日は墓参りに行こう。