東矢の決断 ページ47
……何だかんだで東矢がここに来てからもう数ヶ月が経過し、東矢もここでの生活にすっかり馴染んでいた。
｢なぁマールド｣
｢ん、なんだ｣
｢……俺さ、勇者辞めるわ｣
｢……へぇ｣
東矢が切り出したのは、勇者を辞めて本格的に魔王軍の傘下に加わるというもの。
｢……別にさ、俺が“勇者”である意味なんて無いと思うんだよ。俺にある大事なモンは全部こっちにある訳だしさ｣
東矢は、人間界に何か思い入れがある訳ではない。
かつてたった一人だけ気の置けない友人がいたが、彼は随分前に死んでしまった。
彼と交わした約束は、｢幸せに生きてくれ｣。
だが、東矢は彼といる時以外に幸せというものを知らなかった。
｢……俺、すっかり魔物に染められちまったみたいでさ、もう俺嫌なんだよ、ここをも失いたくない｣
やっと見つけた居場所。
ぶつかることはあれど誰も自分を否定せず、受け入れてくれる。
社会の波の中にいたころには無かった、絶対的安心感。
どれも東矢にとっては手放したくない大切なものであった。
自嘲気味に笑う東矢に、マールドは顔を見ずに語りだした。
｢……好きにしとけ｣
ぶっきらぼうに答えたマールドの顔を見る。
｢どうせお前の人生なんだ。お前がどんな選択しても僕らには咎める権利は無いさ｣
｢……｣
｢……僕だってさ、人間界が嫌だった。
ずっと色んなこと言われてさ、いつも逃げたしたいって、思ったんだ｣
ポツリとマールドが語り出す。
東矢は何も言わず、ただ黙って聞いていた。
｢それでさ、ある時耐えきれなくて逃げ出したんだ。それで宛もなく旅を始めた。
オシストに会ったのはその時くらいだったか？ その後に巧とかをアルマとかリーファとか……色んな奴と出会った｣
｢……｣
｢……僕は人と魔族の中を取り持ちたいって話はしただろ？
でもさ、僕は始めはただ居場所が欲しかっただけだった。
仲間が、友達が欲しかったんだ。
……でもな、旅してる中で、色んな魔物とか人に会ってさ、色々変わったんだ。
誰一人悲しむことのない、全てが共存し合って栄えてく世界に出来たらな、ってさ。｣
｢……それで、魔王に？｣
｢そんなとこ。
魔王になった時にはもう、僕は自分の名前は捨てた。
今のマールドって名前はさ、自分で付けたもんなんだよ。｣
｢そうなのか……｣
｢ま、それでも僕は僕だし、本質はなーんにも変わってない。それでも変化の先に大切なもんが見つかったのは事実だ。
……何が言いたいって……まぁ、自分の生き方は自分で決めろってことだな、結局｣
そう言ってはにかんだ彼の顔が、どこか嬉しそうにも悲しそうにも見えたのは、東矢の気のせいだったのだろうか？
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クロロフィル＠リーフィア狂/あるりーす(プロフ) - 朱欄さん» ありがとうございます！これからも更新頑張りますね！ (2023年1月14日 20時) (
レス) id: c1253398fc (このIDを非表示/違反報告)
朱欄(プロフ) - Banana is Kami(作品最高です!キャラデザがすごく好きです!特にワイドちゃんがかわいい←あ、星押しときますn(() (2023年1月14日 20時) (レス) @page3 id: efb6a7397d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：クロロフィル@深緑の指揮者 | 作者ホームページ：http
作成日時：2022年12月29日 21時
