不死鳥で独占欲の強い彼とオタクで冴えない彼女は：番外編 4

未来への話 5(微ホラー) ページ39

揺り籠のように揺れる椅子に
ゆったりと座って、愛しい彼女は
目を細めながら膨れた腹をさすっている

自分の両手は2杯の温かい紅茶が入った
マグカップが握られていた

・・・あぁ、そうだった
体を冷やさないようにと
紅茶を入れてきたんだ


「A」


彼女の名前を呼ぶと、ふっと
Aは顔をこちらに振り向かせる


「ありがとうございます
・・・はー・・良い匂い」


「サッチから
教えてもらった茶葉だからよぃ・・」


「さすがですね、サッチさん」


あぁ、と頷きながら
隣の椅子に自分も腰かけて
一口紅茶を飲んだ後、机の上に置き
優しく、そっと、彼女の腹に手を添えた


「・・・!
今、蹴った・・・!」


「ほんとだ・・・!
きっとマルコさんのこと
パパって言ったんですよ」


彼女は朗らかに笑いながら
また、お腹を優しくさすった

幸せを噛み締めながら
俺は彼女の頬に触れようとした
次の瞬間

びちゃ、と顔に鮮血が飛んだ


「げほ・・・ッ・・・!?」


彼女が口から血を吐いて
途端に腹を抱えて苦しみ始めた

その光景に、俺は
目を見開いて驚くことしかできなかった


「Aッ・・・?」


「・・うぅう・・・!!
マルコさ・・・ッ・・助けて・・
お腹、子が・・・死んじゃう・・!」


「ま、待ってろ、いま、治してやるから!」


「だ、だめ・・・おねが・・ッ・・
赤ちゃんを・・・・!」


彼女は必死に俺の手を掴んで
治そうとする手を制する
赤ちゃんを、助けて、と
彼女は懇願する中で

後ろから、地響きのような
不気味な声が耳元で囁く


母親か、子供か
どちらか選べ


唐突に選択肢を並べられて
俺は血だらけの彼女を抱きしめながら


「そんな・・・そんな、選択・・
出来る訳がねぇ・・・」


「マルコさん・・・!
お願い、貴方は、もう・・・
・・この子の、父親なのだから・・・
・・赤ちゃんを、助けて・・ッ」


どちらかを失うか
どちらも失うか


ドクンドクン、と胸の動悸が早まる
俺は、俺は


「俺は、Aが一番大切なんだ・・!
お前を失ったら、俺ァ・・・ッ」


目を瞑って彼女を抱きしめる
そして途端に、フッと
抱きしめていた感触が消えて
慌てて目を開くと


自分の腕の中には
へその緒が乱雑に切られて
息をしていない、小さな胎児が







「マルコさん!起きて!」


彼女の呼ぶ声が聞こえ
肩を強く叩かれる感触がして
俺はバッと、飛び起きた

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