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練習生のころ、Aとスンチョルがした唯一のケンカを見たことがある。後にも先にも多分この１回だけ。
見たというか練習室の扉越しに聞いた。忘れ物なんかしなければよかったと、本気でそう思った。
ケンカの内容は、スンチョルの一方的な心配とおもすぎるAへの感情だったんだと思う。あのとき会社からAの前に広げられた選択肢はデビューするか・しないかのたった２つだったけど、その２つは平等な天秤に掛けられたものではなかったから。
『そんな顔しないでよ。せっかくきれいな顔なのに』
SC『そんな話してるんじゃないだろ』
SC『…後悔する。絶対』
そのときのA自身がどちら側にいたのかは分からなかった。けど、確実にスンチョルは反対側にいた。
一緒にデビューしたくなかったわけじゃない。スンチョルはAを“1番側で見てきた”やつだから、それが何よりの理由になっていたんだと思う。
ただでさえ、デビューすることは必ずしも明るい道じゃない。それなのにAの目の前に提示されたのは、それよりももっと重いことを理解していたから。
『＿＿＿知ってる』
3秒、5秒、もっと長かったかもしれないし、短かったかもしれない。
けど、そんな沈黙のあとにAが口にしたのはそれだけだった。スンチョルが言った台詞に弁解するわけでもなく、説得するわけでもなく、ただそう言った。
『知ってるよ。そんなこと』
SC『は…？』
『これから先、後悔する。自分だけじゃなく、スンチョルも他の皆んなにもたくさん迷惑掛けて、多分そのたびに消えたくなる』
そこから先はよく覚えていない。
Aが何か言うたびにスンチョルの鼻を啜る音と嗚咽の混じった声が耳に響いて、忘れ物なんかどうでもよくなって、その場を離れた。
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柊(プロフ) - ぴょんさん» コメントありがとうございます。自分の文章にそう言ってもらえてすごく嬉しいです！こちらこそこれからもよろしくお願いします☺︎ (2022年9月26日 9時) (
レス) id: 1c5041063e (このIDを非表示/違反報告)
ぴょん(プロフ) - すごく深みのある文章で、読み応えがあります。とても面白い小説を生み出して下さりありがとうございます。これからも更新楽しみにしております(><)♡ (2022年9月26日 0時) (レス) id: 0051795449 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柊
| 作成日時：2022年9月23日 17時
