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階下から母に呼ばれた。暫く握られている手を見た後に死神を見上げると、彼は微笑んでゆっくりと手を離した。好きにしていいらしかった。
階段をおりると、食卓のテーブルにはたくさんの料理が並んでいた。メインはハンバーグ。好物だった。私の席の前の皿にはふたつのっている。
「フライパンにまだあるからね」
そう言って母親は笑った。私の赤く泣き腫らした目を見ても、まるで気づいていないかのようにいつも通りに振舞ってくれているのがわかる。
箸でハンバーグを切り分けて、口に入れた。玉ねぎの甘みと旨味を閉じ込めた肉汁が口の中に広がる。
「美味しいよ」
目頭が熱い。結局表面張力に耐え切れずにぽろりと涙が一粒落ちた。瞬きをして誤魔化して、ティッシュをとった。まるで花粉症でも装うみたいに勢いよく鼻をかんだ。
「すごい美味しい」
「良かった。いっぱい食べなね」
「うん」
母は洗い物をしていた。母の皿には少し形の崩れた、小さなハンバーグがあった。それを見てまたきゅうと喉の奥が絞まった。
自分は母親に何も返していない。以前、働きながら家事もこなす母親を手伝おうとしたときに彼女は少し笑った。「お母さんの仕事だからね。あんたはあんたのことすればいいんだよ」
私は席を立った。母親の背中にしがみついて、肩に額を押し付けた。
勉強を頑張っていた。将来母親が楽に暮らせるように稼ぐつもりだった。もしそれが出来なくても、……最低限、親より長く生きることが唯一できる、最大の恩返しだった筈なのに。
「ごめんね」
母親は手を拭いてから私の頭を撫でた。別に謝らなくていいんだよ、と優しく言ってくれる彼女は、私の謝罪の真実を知ればそうは言わないだろう。
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Niko(プロフ) - フォローさせていただきました......!こちらこそよろしくお願いします! (8月20日 18時) (レス) id: f73d5be156 (このIDを非表示/違反報告)
餅屋(プロフ) - Nikoさん» 作りました!きっかけを頂きありがとうございます!ご負担になった場合はフォロー外して頂いて構いません。よろしくお願いします! (8月20日 15時) (レス) id: 51ef15773f (このIDを非表示/違反報告)
Niko(プロフ) - 返信ありがとうございます、嬉しくて泣きそうです!もしアカウントをお作りいただけるのでしたら本当に嬉しいです......! (8月20日 13時) (レス) id: f73d5be156 (このIDを非表示/違反報告)
餅屋(プロフ) - Nikoさん» 無視して頂いて大丈夫です。もし需要があるようでしたらアカウントを開設します。いつも作品を読んで頂いて本当にありがとうございます。 (8月20日 3時) (レス) id: 51ef15773f (このIDを非表示/違反報告)
餅屋(プロフ) - Nikoさん» 良いかと思います。ただ、最新の物語が一番好きでいらっしゃるという貴方のような奇特な性癖の方(すみません)を、正直に申し上げますと逃すのは惜しいため、新しくアカウントを開設した場合に繋がらせて頂くことは可能でしょうか?ご気分を害してしまったようでしたら (8月20日 3時) (レス) id: 51ef15773f (このIDを非表示/違反報告)
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