雨宿りbe our guest 【コウタ】 ページ32
一人暮らしでは、些細な生活音が大きく聞こえる。
例えばいま、台所で下ごしらえする音、炊飯器が蒸気を吹き出す音、そして、雨粒が地面に叩きつけられる音。
多様な音が混じって聞こえる中、私は一言も発することなく、黙々とこの学生マンションの一室で生活している。
こんな寂しいものとは思わなかった。
目の前の鮭に塩コショウをかける。
すると、外の階の方から慌ただしい足音が鳴った。
この大雨だ。洗濯物や、傘とか、そんな気の抜けた理由だろう。と可笑しくなって、一人、静かに笑ってしまう。
足音は響くものから、コツコツコツと軽やかな(しかし慌ただしい)音に変わった。
なるほど、同じ階の人か!と思い浮かべるも、気の抜けた失敗をするような人は思い付けない。
誰だろう、と菜箸を手に取った途端、足音は途絶えた。
あら、と玄関の方へ向いた瞬間、呼び鈴が鳴った。
__国立大に進学したとはいえ、家賃などにお金を掛けたくない私はマンション玄関からの呼び鈴、というような豪華なセキュリティ対策は望まなかった。
だがその変な意地を今更後悔した。
インターホン画面を恐る恐る覗くと、
『ど、どちらさ、コウタ?』
髪はびしょびしょ、バンダナも意味をなしてない。
名前をよぶと、何だか申し訳なさそうに目を閉じて言った。
「ごめん、雨宿りさせて…!Aしか頼れなくて…。ごめん」
同じ出身高校で仲が良かったというのもあり、急いでタオルをもって扉を開けた。
外の雨音は一層強くなっていた。
何もかも濡れていたので風呂場へ行かせた。
代わりの服として渡した高校のジャージはやはり彼には小さかったらしい。
すっかり健康的な顔色に戻った彼は幸せそうに目を細めて私の頭を撫でた。
いつもの雰囲気と違ったので思い切り払い除けてまったが…。
『こんな雨の中、どうしたってんのよ』
「今朝、遅刻しそうになって、予報見てなかった…。折り畳みもなくてさ。」
甘酒を出すと、嬉しそうに再び目を細める。
「俺のマンションって徒歩20分じゃん。バスは満員、友達も先帰っててさ…」
『だから大学から一番近い私の家に来たったいね。』
まあいいけどね、と軽く返して台所に戻る。
鮭はもう準備万端だった。ここで、ひとつ思い付いた。
『コウタさ、彼女さんとかいる?』
「ぅえ!?ん?まぁーこれからできる予定っていうかー、まだー、そんなー」
『おらんね。』
「笑うなよ!お前だって!…え。」
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ルーネスガルディン - 死神のシャルロットだ。、、、此処は? (2016年6月13日 12時) (レス) id: e3be47b955 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白い屈み | 作成日時:2015年8月18日 15時