33.「嫌だって言っても傍にいる」 ページ33
JM side
海に入る気なんてサラサラなくて、それでも一緒に来た理由なんて一つしかない。
それをAは分かっているのかな。
飲み物を買って戻ると、波打ち際に座り込んだAの傍に近寄ろうとするチャラついた男が見えたから急いでAの元へ駆け寄る。
あんなのがAと話すなんて最悪だと思う。100年どころか１億年早い。
隣に座ったAの瞼に乗ったラメが、瞬きをするたびに日差しを跳ね返してキラキラと輝くのに、
その瞳の奥は曇っているように見えた。
常日頃からうるさいと思っていたあの甲高い大きな声も、ないと寂しく感じるんだから厄介だ。
たしかにこの眩しいほどに照り付ける太陽には、あの小麦肌が何よりもよく似合っていた。
「A、アイス食べに行こう」
手をぐいっと引いて立ち上がらせると自分とあまりに違う華奢な体は簡単に立ち上がった。
「お腹出ちゃうよ〜」と少しだけ困った顔をしたわりには手を繋いで歩きだせば素直についてくるし、
何味にしようかなと散々悩んでいたくせに結局選んだのはいつもと同じバニラのソフトクリームで、
「奢ってあげる」と言えば「いいの？」と目を輝かせるんだから、そういうところも可愛いと思う。
ちなみに俺のはレモンのかき氷で、Aが羨ましそうに見つめるから一口すくってスプーンを向ければ、
何の躊躇もなくぱくりと食いついた。
「やっぱりAは笑ってるほうがかわいい」
『ん？急になに？』
「ナナはAがの味方だよ〜ってこと」
『わあ、ありがたいなあ』
「Aが嫌だって言っても傍にいるからね」
キョトンとした顔で首を傾げたAは「そんなこと言わないよ」と言って笑った。
これは本気だと思ってないな、こんなにも本気なのに。
喋りながら食べていたせいで、ほっぺたにソフトクリームが少しついてしまっていて、
トントンと自分のほっぺたを指さして教えてあげたけど、上手く伝わらなくてAは不思議そうな顔をするだけだった。
「ついてるよ」と言えば「取って」と素直に少し顔を近づけてくるんだから
この子は本当に可愛いんだと思う。
ずるいな〜と思うし、あざといな〜とも思う。
でもそれが不思議と不快に感じないのは惚れた弱みなんだろう。
『あ、ジェノとロンジュンにもアイス買っていこう』
.
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作者名：ロク | 作成日時：2022年5月8日 2時
