【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

シンデレラの魔法は溶けた ページ38

笑い声で溢れていた空間が、まるで怒声を浴びたかのようにシンと静まり返る。時間停止を食らったかのように目の前の彼の手が止まり、そして私の口角は上がったままで凍り付いた。しかしその言葉を理解する為には、少しの猶予も必要としなかった。

山本さんが、誰かに告白された。

たったそれだけのことだった。それ以外何の意味も持たず、それ以上の何者でもない。言わずもがなそれ以下でもない。

「…えっ、誰から聞いたの。」

まさに図星だと言うその台詞が、私の心をズキンと痛めた。元より、嘘であってくれと願う暇すらなかったけれど。酔いか照れか分からぬ頬の赤みが、追い討ちを掛けるように視界に入って来る。その赤に目を奪われ、彼の表情までを見ることが出来なかった。

「あはは、すっかり社内で話題だよ。」

そう言って、こうちゃんは軽快に笑った。耳を塞ぎたくなるほど愉快な笑い声が、痛いくらいに残響する。その振動は耳から全身へ伝わり、手指の爪にまで轟いているような、そんな感覚だった。

「山本さんも遂にそっち側に行っちゃうのかあ〜。」

呼吸が上手く出来なかった。自分だけが真空の中にいるのか疑うくらいに、酸素が見当たらなかった。心臓を締め付けるような息苦しさで、私は思わず俯いた。上手く力が入らなくて、弱々しく握られた拳が汗ばんでいる。

そんな簡単なことすら分からなくなってしまったのに、苦しいと言う感情だけははっきりと認識出来た。そんな自分の空っぽさが、虚しくて仕方なかった。

「いや、まだ、」

何かを言おうとして、彼の声は隣の席の笑い声に掻き消されてしまった。しかし、それが私にとっては丁度良かった。今はきっと、彼のどんな言葉を聞いても泣いてしまうから。

「まあまあ、おめでたいことじゃん！ねえ、Aさん。」

こうちゃんに名前を呼ばれ、私は咄嗟に顔を上げた。ほら、笑わなきゃ。彼らと出会えただけでも幸せなのに、推しに恋をするなんて、私は浮かれ過ぎにも程がある。

「…おめでとうございます、山本さん。」

絞り出した声は、少しだけ震えていたけれど。職業柄、愛想笑いに慣れていて良かった。

ふと感じた視線の先には、複雑そうな表情を浮かべた伊沢さんが映る。彼の見たことがないその表情に、私は無意識のうちに目を背けた。

「さ、仕切り直して乾杯しよう！」
「え、伊沢さん、急にどうしたの？」

再び交わるジョッキの音が、まるで終わりを告げるチャイムのように響き渡った。

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