【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

もう一歩進めば日常の終わり ページ37

伊沢さんの言葉で、二人の視線が卓上に集中した。珍しいサワーやハイボールを指差しては、楽しそうに話を弾ませる姿が何とも尊い。千枚連写して永久保存したい。そんな欲求を喉元で抑え、私もそれとなくメニュー表を覗き込んだ。使い古されてよれた紙に、多くの文字が映されている。

「とりあえず生かな。」

一通り目を通しながら会話を弾ませた後で、山本さんがそう呟いた。お店じゃ甘いお酒ばかり飲んでいるイメージがある分、こういうお酒を選ぶ姿に大人の男性を感じてしまう。そういえば、こうちゃんがワインを開ける動画では彼の席にビール缶が置かれてたっけ。きっと場に合わせて物を選ぶタイプなのだろう。

「俺もビールで。」
「俺はレモンサワーにしよ。」

散々ドリンクで盛り上がっていた挙句、全員王道のお酒を選ぶんかい。思わず心の中でそう突っ込んだものの、その一連の動作すら可愛いと思えてしまう。きっと特別なフィルターが掛かってしまっているんだろう。

「Aさんはどうする？」
「あっ、えっと…。」

目の前に座る山本さんにそう声を掛けられ、私ははっと我に返った。すっかりサブチャンネルを見ているような感覚に陥っていた。この光景は、カメラも画面も隔てない現実なのに。

…何度でも言うが、やはり夢みたいなことである。

「じゃあ、私も生にします。」

数秒メニュー表を見て、結局私も王道のお酒を選んでしまった。周りに合わせたと言うところもあるが、こういうお店に来たらそんなお酒を飲みたくなる。伊沢さんが声を張り上げて店員さんを呼ぶと、先程の威勢の良い青年が駆け寄って来た。

「Aさん、ビールも飲むんだね。」

そう言った山本さんに続き、こうちゃんが意外だと言って頷いた。きっと、普段は専らカクテルばかり作っているイメージが有るからだろう。自分のことを聞かれるのは、何だか照れ臭い。そんなことを思いつつ、私は笑顔を浮かべた。

「ふふ、好きなんです。」

やがて運ばれて来たジョッキを片手に、私たちは痴話話を始めた。彼らの学生時代からこの前行った喫茶店まで、それはもう幅広くテーマに囚われない話をした。徐々にボルテージが上がり、声のボリュームが右に大きく捻られた彼らが楽しそうで、何だか私は幸せだった。

…この時までは、確かに幸せだった。

空は黒い闇に包まれた頃。すっかり顔を紅潮させたこうちゃんの一言から、私の日常は大きく揺らぐことになる。

「そういえば山本さん、告白されたんでしょ。」

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