【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

現実的には友達未満？ ページ34

「じゃあ、また来ます。」

軽快に手を振る店長に一礼して、私は静かに病室のドアを閉めた。来る前より荷物の減った鞄は軽く、太陽は高く広がった空の中心を陣取っている。

何だか足取りの軽い私は、まず目に留まったお洒落な喫茶店に寄り、それからウィンドウショッピングを楽しんだ。こんな風に休日を満喫するのは、学生時代以来だろうか。悩み抜いた挙句コートを購入しお店を出ると、空はすっかり橙色に染まっていた。燃えんばかりの夕焼けが、銀杏や紅葉の木と合わさって、景色に鮮やかな彩りを与えている。

折角だし、何処かで夜ご飯も食べて帰ろうかな。少し大きなショップバックを右手に下げ、私は再び歩き始めた。ぽつぽつと明かりが点き始めた街に、仕事終わりの会社員や学校終わりの学生が生き生きとした表情で歩を進めている。

門を曲がり大きな通りに出ると、人通りは更に活発になった。建物から流れる音楽が、都会の賑わいに一層花を添えている。こんな景色、久しぶりに見たな。信号待ちでふとビルと景色の狭間を見上げた時、後ろから私を呼ぶ声が聞こえて来た。

「Aさん！」
「わっ、山本さん…！」

振り返り、その姿を見て私は思わず目を見開いた。そこには言わずもがな、私の大好きな人物が立っていたのである。ダークブラウンのシャツとワンウォッシュのデニムが良く似合う彼は、私だと確信を持つと一層目尻を落とした。

「こんばんは。普段と印象違い過ぎて、別人だったらどうしようって緊張しちゃった。」

彼は私の髪型から服装、足元までを一度に視界に入れると、再び視線を合わせてそう笑った。キチンと一つに結ばれた髪は今日はウェーブに巻かれているし、モノトーンの制服はブラウンのワンピースに入れ替わっている。むしろこの姿を見て、よく私だと気付いたものだ。

「ふふ、お店の外でお会いするのは初めてですもんね。」

その言葉の終わりと共に、信号は音を立てて青色に変わった。私たちは一斉に歩き出した人混みの流れに任せ、肩を並べて歩き出した。

「何処かにお出かけしてたの？」
「はい。ふらっと買い物しに行ってまして。」
「おお、良いねえ。今日お店、定休日だもんね。」

いつもと変わらぬ当たり障りのない話ではあったが、姿や背景が変わると何だか特別なものに感じられる。傍から見たら、私たちは友達…ましてカップルなんかに見えるのだろうか。そんなあまりに飛躍した妄想をすると、自然と足取りが軽くなった。

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