【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

非日常の音がする ページ4

確実に近づいて来る大勢の足音に、私はグラスを拭く手を止めずにドアに視線を集中させた。

ここはまだ夜更けでもない時間に、まして大人数で来るような店ではない。男が目当ての女に対してホテルに誘う前に、ちょっと飲もうかとか言って入るような店である。そう言ってしまうと何だか聞こえは悪いけれど、実際そういうシーンで来たのだろうという客がかなり多いのは事実であるし仕方ない。

冷やかしだろうか。大人数お断りだとか言う看板も一緒に掛けておくべきだったな。下の階にあるチェーンの居酒屋の方がきっと楽しいから、頼むからここには来ないでくれ。

そんな私の願いはフラグかと言うほど呆気なく崩れ落ち、足音が店の前で静まった直後、徐々に重く閉ざされていた扉は開かれていく。

とりあえずどんな人たちか確認して、ヤバそうな人たちだったら今日はもう閉店時間ですと嘘を吐いて退店させてしまおうか。人を外見で判断するなと言えど、自衛行為は大事であると正当化したい。

「いらっしゃいませ、こんばんは。」

廊下から漏れる眩しい光に彼らの姿がよく見えず、私は取ってつけたような決まり文句を口にして頭を下げた。落とした視界に映る足の数で六人だと言うことは理解したが、千鳥足でなく凛としていて、一向に騒ぐ様子もない。

普通の人たちか、はたまた冷やかし大学生か。仮に冷やかしに来た大学生であっても、店内で潰れたり嘔吐したりしなければ何でも良いけれど。

頭を下げたまま展開され続ける私の推論は、一人の男が発した声によって、一瞬にして吹き飛ばされた。

「初めまして、こんばんは。」

落ち着きを含んだその音に聞き覚えのある私は、勢い良く頭を上げて視線を向け、そして唖然とした。グラスを持っていた手が緩み、危うく地面に破片を撒き散らしそうになるほど。

「え…っ！？」

澄んだ瞳で私を捉え、徐々にこちらへ歩みを進める六人のことを、私はよく知っている。否。知っているどころか、大好きという感情すら抱いている。そんな彼らのことを、私が間違うはずがなく。

押し寄せる様々な感情の波を抑えるように、私は唾を飲み込んだ。

「お店の責任者の方はいらっしゃいますか。」

先頭に立つ彼は真っ直ぐ私の目を見つめ、はっきりとした口調でそう問い掛けた。

「えっと、私…です。」
「おっと、そうでしたか。失礼致しました。」

そう言うと彼は一切の屈託のない眩しい笑顔を浮かべながら、ジャケットから一枚の紙を取り出して私に差し出した。

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