【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

二人の夜に種を明かそう ページ25

「そんな、とんでもございません。私に出来ることは、それくらいでしたので。」

彼の行動に感心したものの、私はそう言って一万円札を彼に返した。勿論そのお金が欲しくなかったわけではない。たった一杯のサービスドリンクでそんな金額を受け取るなんて、私にはあまりに荷が重かったのだ。

「いつも懇意にしてくれるお礼だから、是非受け取ってよ。」
「いや、そんな…。」

しかし、何度断っても彼は引き下がろうとせず、結局押し付けられる形でその一万円札は私の元へと辿り着いてしまった。お礼なんて私がしたいくらいなのに、伊沢さんは満足そうな表情をしている。このお金は、QuizKnockのグッズ代に使って還元しよう。そう名案を思い付いたところで、私は有り難く一万円札を受け取った。

「すみません、ありがとうございます。」
「いえいえ。ところで、こうちゃんに何のお酒を作ったの？」

美味しかったみたいだけど、カクテルの名前は分からなかったんだって、と彼は言った。無理もない。味だけで種類を当てることは、余程の酒飲みですら難しい。私だって、舌が利くようになるまで相当な時間が掛かっている。ましてあの日のこうちゃんは、飲んでいるのが涙かお酒かすら判別が付かなかっただろう。

「カシスソーダでございます。」
「お、俺も知ってるやつだ。」

リキュールの瓶を見せると、彼は身を乗り出してそう言った。学生が行くような居酒屋には百と言って良いほど確実に置いてあるカシスリキュール。炭酸水と合わせることで爽やかな飲み口になり、カシスオレンジと同様特に若い女の子に定評がある。

「このカクテル、お好きですか。」
「成人したての頃はよく飲んでたけど、今はめっきり。」
「デビュー酒には持って来いですよね。」

だね、と言いながら更に目を細めた彼の笑顔を見て、私は幸福感で胸が一杯になった。長年ファンをしている分、この笑顔がテレビで見せる外面の笑みでないことはすぐに分かる。動画で見せる、踊ったり叫んだりする方の表情が、今私に向けられている。こんなに幸せなことは滅多にない。私の心の中では、今すぐ村祭りタイムが始まりそうだった。

「どうして、カシスソーダを選んだの。」

ベリーニを飲み干した彼は、興味津々な顔をしてそう私に問い掛けた。瞳の中には、私がすっかり失ってしまった無邪気さが生きている。

「伊沢さんは、カクテル言葉をご存知ですか。」

そんな彼が眩しくて、羨ましくて仕方のなかったことを、今でも覚えている。

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