赤色の感情は透明に近い ページ23
こうちゃん、やっぱり彼女いたのか。彼の言葉を聞いて、真っ先に脳内を占拠したのはそんな言葉だった。動画上でいつもペアリングのようなものを付けているし、テレビでクリスマスの予定を匂わせるような発言をしていたおかげで、彼に彼女がいる疑惑は昔からずっと囁かれていた分衝撃は少なかった。
むしろこうして直接的に存在を明かされたことは今が初めてで、さらに私には喋っても良いと思われていることに、不純ながらも嬉しさすら感じてしまう。もし私がQuizKnockの立派なファンだと豪語していたら、きっとこの話を聞かされることはなかっただろう。その意味で、彼らのプライベートを尊重した自分を褒め讃えたい。
「別れたくないって、言ったんだよ。けど、」
濁った感情を隠すようにして、私は黙って頷いた。既に大筋を知っているであろう福良さんは、出したばかりのナッツを食べながら私たちの顔を交互に見やっている。文章で読むと一見淡白そうに見えるかもしれないが、彼の瞳からは隣に座るこうちゃんを思う気持ちが滲み出ていた。
「…好きな人が、出来たんだってさ。」
言葉を辿るような声は徐々に涙を含み、こうちゃんは紛らわせるように味の薄まったウイスキーを飲み干した。慣れない濃さが、その心と相まって顔が歪んでいる。
「同じ職場の、同期なんだって。」
「それ言われたら、もう何も言えなくなっちゃったよ。」
ゆっくりと紡ぎ出す言葉を、私たちは静かに聞き続けていた。自分の忙しさから八つ当たりをしてしまったこと、今さら後悔してももう遅いと言うこと、ずっと一緒にいたかったこと。たくさんの想いが、彼の心の奥底から言葉となって溢れ出していた。
「…そっか、頑張ったね。」
全てを吐き出した彼に、福良さんはそう言った。たった一言が、優しくて温かかった。この空間に、無駄な文字数なんて必要なかった。
私は何も言わず、彼へグラスを差し出した。
「ありがとう。」
僅かに微笑んだ彼は、静かにグラスを手に取った。誰でも目にしたことがあるような、半透明な褐色の赤。しゅわしゅわと音を立てて揺れ動くその色は、涙で流れた色彩を取り戻すことが出来るだろうか。
空になったグラスを置き、彼は視線を窓の外へと移した。晩夏、満天の星が輝いている。
「大好きだったなあ…。」
涙は彼の頬を伝い、グラスの中へと零れ落ちた。濃度の高い涙だった。たくさんの感情が詰まっているにもかかわらず、その涙は透き通っていて、皮肉なほどに綺麗だった。
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萌衣(プロフ) - akiakiさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!ニコラシカは「決意」「覚悟を決めて」というカクテル言葉を持っており、その後の展開を示唆するような存在になっていました。そう言って頂けてとても嬉しいです(;;)良ければ続編もよろしくお願い致します…! (2020年12月4日 7時) (レス) id: ba6d0efe33 (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - 少し遅れましたが、心打たれたので感想を書かせていただきますね。“決意”ですか。良いですねぇ (2020年12月3日 23時) (レス) id: 9ea9a75c9d (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - みるくてぃーさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!実は主人公が選ぶカクテルは、全て思いや感情とリンクするように描いていました。それに気付いて下さって、更に調べて下さるなんて、嬉しい限りです(;;)長くなりますが、良ければ完結までよろしくお願い致します…! (2020年11月14日 8時) (レス) id: ba6d0efe33 (このIDを非表示/違反報告)
みるくてぃー(プロフ) - コメント失礼します!カクテル言葉、存在を知ってはいましたが、ひとつずつの意味を知るのは初めてで調べることも楽しかったです(*^^*)また更新楽しみにしています! (2020年11月13日 22時) (レス) id: c5c88d3947 (このIDを非表示/違反報告)
萌衣(プロフ) - たーさん» 初めまして、コメントありがとうございます…!この作品が毎日の楽しみの一つになれているなんて、とっても嬉しいです(;;)素敵なお言葉、本当にありがとうございます。長くなりますが、良ければ完結まで見守って頂けたら嬉しいです…! (2020年11月10日 23時) (レス) id: cd279427a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:萌衣 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年10月21日 16時