【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

絶望も希望も表裏一体 ページ3

窓の外に広がる世界が徐々に橙色に染まり始め、社会人の終業の時間が迫って来た頃、私はいつもと同じ手つきで開店を知らせる看板をドアに掛けた。

レコーダーをオンにすると聞き慣れた落ち着きのあるピアノミュージックが流れ出す。この音楽を聞くのももう何年目だろう。

一切の新鮮さを感じないものの、店長の趣味嗜好から選んだ音楽であり、この店の雰囲気とよくマッチングしている選曲なため私がどうこう言える話ではないだろう。しかし、今この瞬間のような客がいない時間には、本当は流行りの邦楽なんかを流したいものである。

平日のど真ん中である今日は、いつもの通りならばきっと売り上げを期待出来ないだろう。こんな日にわざわざ景気づけに酒を飲もうなんて思う社会人は少ないだろうし、ましてここは大学生が来店するような場所ではない。陳腐な大衆居酒屋ならきっと、明日のことなど怖いもの知らずな学生が来るだろうが、社会人がターゲットであるバーにおいて、平日の需要はかなり少ないのである。

しかしまあ、私はこの店の経営者ではなく時給で働くアルバイトであるため、暇な方が楽して稼げて良いというのが本音だけど。

私は定位置であるカウンターの奥に立ち、何度拭いたか数え切れないグラスを磨き続けて、ただ閉店時間まで時計の針が動くのを待っていた。今日も、誰とも会話を交わさないまま一日が終わりそうだ。一言も発さなかったことに寂しさを覚えていた日が酷く懐かしくて、それでいて羨ましい。

学生時代の友達は揃って立派な社会人になって忙しそうだし、長年付き合っていた彼氏はフリーターになってしまった私を将来性が見込めないからと言って冷徹に切り捨てた。真っ当な決断だと思うが、まさかこれほどまで孤独を感じることになるとは。

まあ、自業自得であることに変わりはないけれど。

近くに置いていたスマホが光る。皮肉にも就活サイトからの通知で、私の心はズキンと痛んだ。いつまでもアルバイトの沼に浸かっていないで、いち早く就活を始めるべきであるのは分かっている。

分かっているけれど、どうも足が竦んで動き出せないんだよ。

何度も送り付けられた不採用を告げるお祈りメールに私の気力は削がれ、やりたいことなんてとうの昔に分からなくなってしまった。

ああ、誰か私のこと急にスカウトとかしてくれないかな。

あまりに腐った感情に自分自身で嘲笑した瞬間、ドアの向こうから賑やかな足音が聞こえて来た。

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