【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

過ぎ去る月日は糧となる ページ19

「Aさんは、どうしてバーテンダーになろうと思ったんですか。」

知らないことに興味が出るのは彼らQuizKnock共通の特性だろうか、彼は話題を変えることなく私に対して質問を投げかけた。店員に質問をするお客さんなんて滅多におらず、ましてこんなことを聞かれたのは初めてで私は戸惑った。

「特に大きな目的はなくて…。高校一年生の時、たまたまここの求人を見つけて、何となく始めただけなんです。」

高校一年生の七月、学校からの帰り道で何となく目に入ったボロボロの求人の紙。高校生にしては悪くない時給と高校生可の文字。友達は揃ってアパレルやカフェで働き始める中、そんなものに憧れを抱かなかった私は適当な気持ちでこのアルバイトに応募した。

面接の日、まあ不採用でもいいや、なんて惰性に塗れた気持ちで店に入ると、店長はこのバーカウンターの奥に立っていた。ドアの音で振り返って私の顔を見るなり、一言も話すことなく採用だと言ったんだっけ。振り返ってみると、店長も私もあまりに適当で笑ってしまう。

「すみません、折角聞いて下さったのに。」

小粋な店で、こんな無粋な動機で働く私のことを、一体彼はどう思うんだろう。いつも素晴らしい人格者たちと行動を共にしているから、よりつまらない人間だと思うだろうか。しかし、空気を読むのが上手そうだから、建前上気を遣って愛想笑いで流してくれるだろうか。

そんなことを考えていたにもかかわらず、彼の反応は私の予想からはかけ離れたものであった。

「やっぱり、Aさんは凄いなあ。」
「…はい？」

あまりに連関性のないその答えに、私は思わず耳を疑った。目を輝かせて発されたその言葉は、嘘と呼ぶにはあまりに抽象的すぎる。

「そんな、大層なものではございませんよ。」

本心から出た間抜けな音を掻き消すように、私は咳払いを一つして言葉を続けた。しかし彼はその目に宿した灯りを消すことなく、微笑みを浮かべて首を横に振った。

「ずっと一つのことを続けるって、なかなか出来ないことだと思うんです。」

だから素晴らしいことじゃないですか、と彼は付け加えて笑った。その言葉は私の心に直接届いて、閉じ籠っていた殻から解放されたような感覚に包まれた。ここで過ごした年月が決して無駄じゃないと言われたようで、今ここに立つ私自身を認めてくれたような気がして。

…七年、か。ぼんやりと過ぎ去ったように思えるけれど、悩んだり落ち込んだりすることもたくさんあったよな。

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