【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

昇る太陽はやがて沈む ページ15

「こちら、ライジングサンでございます。」
「わあ、可愛い…！」

二つのグラスを差し出すと、彼女はたちまち目を輝かせてオクターブ上の声を上げた。向かいに座る男は、その様子を溶けそうなほどの笑顔で見つめている。きっと初デートだろう。二人の間に宿る見え透いた緊張感が、初々しくて可愛らしい。

「ライムの風味が仄かに感じられて、口当たりが爽やかなカクテルになっております。」

それを聞いた彼らは小さく感心した声を上げ、グラスをじっと見つめた。お互いの視線はグラスに向いているものの、関心はグラスの奥にいる相手にしか向いていないことが初対面の私にも伝わって来る。

微笑ましいなあ。昔は他人の恋愛成就に嫉妬心すら抱いていたのに、今となってはこんな普遍的な感情を抱いている。これも一種の老いだろうか。

閑話休題、これは新鮮な二人の関係性にぴったりなカクテルである。どうか幸せになれますように。

「どうぞごゆっくり。」

小さく彼らに礼をして、私は再び定位置であるバーカウンターに身を戻した。昨日のあまりの忙しさとの落差が激し過ぎて、今日は来客数も忙しさも典型的な普通の平日であるにもかかわらず、かなり退屈に感じてしまう。

まあ暇な方が好きだけど。そんなことをぼんやりと考えつつも何気なくグラスを手に取った瞬間、ギイっと重みのある音がして、慎重に扉が開けられた。

廊下から蛍光灯の明かりが漏れて、薄暗い店内に一筋の光が突き刺さる。

「いらっしゃいま…。」

客と目が合って、私は幾らか呆気に取られ言いかけの言葉を失った。

「一人、入れますか。」

男性にしては低めの身長、如何にもオフィスカジュアルなジャケット、動きのある柔らかい髪、ぱっちりと開かれた二重の瞳。

それは私の大好きな推しであることだと認知するまでの要素として、十分過ぎるくらいであった。

「勿論でございます。どうぞ。」

驚きが伝わってしまわないように、私は覚束無い手の先をカウンターに向けてそう言った。いつもと同じ微笑を浮かべて、言い慣れた台詞を口にしているはずなのに、その全てが不自然ではないだろうかとハラハラしてしまう。

「良かった。お邪魔します。」

ニコッと笑顔を浮かべた彼は、一直線に此方へ歩くと目の前のカウンターに腰を下ろした。いつもの癖でこの席へ促してしまったものの、こんなに近い距離で彼を見られることが現実だと信じられない。

いや、むしろ。夢で終われた方が幸せだったのかもしれないけれど。

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