【QK】透明色の感情を愛と呼ぼう【ymmt】

夢も期待もテーブルに乗せて ページ12

再び静寂を取り戻した店内で、私は一人黙々と客席の片付けをし始めた。いつもは億劫になって次の日の開店前に押し付けがちなこの作業だが、あんなに素敵な時間を過ごした今日は、活力に漲っている。

まさかあのQuizKnockのオフィスがこの上の階に作られて、巡り合わせでここに来店して、そして少なくはあるが会話を交わすことが出来るなんて。少女漫画の世界のような現実に、私は何度も幻覚を見ているのか疑ってしまう。少なくとも今日の夕方までは、そんなことが起こる運命にあるなんて想像すら出来なかった。そもそもこんな素敵な妄想を出来る能力だって、私は持ち合わせていない。

『また、俺らにお酒について色々教えて下さい。』

伊沢さんの言葉が、声色や表情まで鮮明に蘇って私は頬が緩んだ。考える必要もなくまた来店することを意味するその言葉に、私の心はすっかり満たされてしまっている。話が出来ただけでファンとしては最高級の幸福を味わっているのに、あんなに大好きな人たちとまた会えるかもしれないなんて。

「…夢みたい。」

これほどまで煌めきを持った台詞は、未来に希望を見出す少年少女にしか似合わないはずなのに。思わず呟いたその一言は、空調の音だけが控えめに聞こえるこの店内に堂々と響き渡った。

カウンター席の片付けを全て終え、最後に数十分前まで彼らの座っていたボックス席に取り掛かろうとして、私はもう既に緩んでいた表情を更に緩ませた。片付けをしやすいように配慮してくれたのか、皿やグラスが全て端に寄せられている。

空っぽになった皿と色を残すことなく綺麗に飲み干されたグラスを見て、私は何だか温かい気持ちで一杯になった。世代を問わず食べ物を残す人は結構な割合でいるこの世の中だが、彼らは気持ちが良いほど綺麗に完食してくれている。きっと育ちも良いんだろうな。

画面越しでは知ることが出来ない彼らのプライベートなところに触れられて、その滲み出る素敵さを感じられて、そしてまた会える機会が有りそうで。これ以上に欲するものはもう何もないと言い切れるほどの幸せを、私は今手にしてしまっているのかもしれない。

次はいつ彼らが来店しても良いように、もっとヘアメイクに気合いを入れよう。臨時店長に就任してかなり給料も上がったし、たまには高いコスメでも買っちゃおうかな。次の店休日には美容室に行って、地毛が目立ち始めた髪を綺麗に染め直してもらおう。すっかり浮かれた私は、鼻歌交じりにテーブルを拭き始めた。

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