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彼が見に来るとしたら千秋楽だと思っていた。
「お疲れさま」
「カズさん、」
その予想は当たっていて、全てが終わって抜け殻のようになっていた私の楽屋に彼が顔を見せてくれた。
拍手をしながら近寄ってくる姿がとても久しぶりに感じて。
実際に数ヶ月会ってないのだからそれもそうかと一人納得する。
話していない時間がまるで無かったかのようにするりと距離を縮めてくる。
心の距離を感じさせないそんなところが大好きだと再確認してしまうから嫌になる。
大丈夫？私はきちんと私に戻れてる？
いつになく真剣な彼を見つめながら気付かれないように自分に問いかける。
カズさんの前だと自信ないかも。
「どうでした私？」
「やっぱすげえよお前。あの首にキスするところなんか凄絶でぞくぞくした」
「嬉しいこと言ってくれますね」
演者の先輩としての褒め言葉についつい舞い上がってしまう。
うん、馬鹿だわ私。
こんなの繰り返してたらいつまでたっても諦めきれないじゃない。
「観ながら色々考えたよ…お前のこと、俺のこと」
「うん」
「……俺はお前のヨカナーンにはなれねぇわ」
ああ、そう。
やっぱりこうなるのね。
分かってはいたけれど、こう面と向かって言われるとキツイものがある。
もしかしたら彼は私なんかにはもう会いたくなかったのかもしれない。
だって私が叫んだのは女優として言ってはいけないこと。
同じ役者をしている彼への侮辱と捉えられても仕方のない言葉だ。
それでも私の言葉に返事をするためにここに来てくれた。
私はどうすべき？そんなの簡単だ。
正々堂々と伝えてフラれる。
これが私なりの最後の意地だ。
「カズさんあのね、私ちゃんと言いたいの。言わせて？」
「ん？」
カズさんの焦げ茶色の瞳を見てふうっと一呼吸おく。
…よし、これなら平気。
「ずっと、貴女が好きでした。貴方の幸せを願ってきました。私じゃなくても貴方を幸せにする人がいつか現れてくれば良いと思ってます。だからもっと自分のことを大切にしてください」
「…おう」
「はい！終わり！ごめんね。しばらくは気まずいと思うけど普通にするように頑張るから」
彼がしっかり頷いたのを確認して、無理やり明るい声を出す。
不思議と涙は出てこない。
それはあの夜に散々泣いて出し尽くしたからかもしれない。
「ねぇ、まだ俺の話は終わってないんだけど？」
どこか清々しい気持ちでいた私を困惑させたのは彼のそんな一言だった。
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紫苑(プロフ) - yukidarumakunさん» あとがきにも追記しましたが、この二人のその後を短編で書き始めました。ぜひ覗いてみてくださいね。 (2020年6月7日 16時) (
レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
yukidarumakun(プロフ) - ものすごく楽しみです！またこの2人に会えるのを楽しみに日々の生活頑張ります。こんな時期ですので御無理のないよう創作して下さいね。 (2020年6月6日 19時) (レス) id: b586aa50e6 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - yukidarumakunさん» 労いのお言葉ありがとうございます。この後の二人については少し考えていることがあるので楽しみに待っていてください！続きを書いた時にはまたこちらでお知らせしますね。 (2020年6月4日 12時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
yukidarumakun(プロフ) - 完結お疲れ様でした。この後の2人も見たいですね。また、いつか続編読ませて頂ける日を楽しみたいしています。 (2020年5月31日 19時) (レス) id: b586aa50e6 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - めぐぽん(*´･∀･)さん» コメントありがとうございます。楽しみと言って頂けて嬉しいです。更新頑張りますね！ (2020年5月26日 23時) (レス) id: 217cb95def (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2016年12月14日 22時
