第214話 ページ28
立ち上がってずんずん石碑の前に歩み出ると、これまで抑えていたものをすべて吐き出すように加州は
握り締めたお守りがくしゃりと歪み、止めどなく溢れる涙で頬が濡れた。
そんな彼を横から抱きしめ、僕より少し高い位置にある肩を優しく叩く。
加州は僕の腕にしがみつき、声を押し殺して泣き続けた。
…二代目を、本当の意味で"主"と呼んだのは、きっと彼が最初で最後なのだろう。
素晴らしい才覚を持ちながら、その力を周りの人間に潰されてしまった、憐れな人。
きっと、一年前彼が死んだのも、彼自身の意思によるものだったのかもしれない。
最後まで"救いようのない不良審神者"で在り続けるために。
その為だけに飲み下した酒は、一体どんな味がしたのだろう。
せめて…彼の魂が、安らかに眠れるように。
もしも生前の罪を問う神様がいるならば、どうか。
彼を主と呼ぶ加州の想いくらいは、聞き入れてあげてくれないだろうか。
***
「お〜?やっと帰ってきたなぁ!
随分遅かったじゃないか〜」
…あのあと、加州とは再び"このことは二人だけの秘密"と約束してから、少しタイミングをずらして宴会場に戻った。
といっても、加州は泣きすぎて目元が腫れてしまったので、冷やしてからそのまま寝ると言って部屋に行ってしまったけど…その表情はどこか晴れやかだったので、きっともう大丈夫だ。
そして宴会場に戻って来て早々、すっかり出来上がっている鶴丸に絡まれてしまった。
「主役が一体どこほっつき歩いてたんだ?ん〜?」
「あー、場酔いしちゃったからついでに散歩を…
うわっ酒クサッ!ちょ、こっち来ないで」
「ひどいなぁ〜鶴さん泣いちゃうぞぉ。
三日月のやつも、きみが厠に行くと言ったあとすぐに俺も〜なんて言い出して、ついさっきまでいなかったんだじぇ〜?構えよぉ」
「えっ…いや、うん、長義に構ってもらいなよほら」
「おいお前、さっき俺を置いて逃げ出したこと忘れてないからな…?」
「あー!散歩してきたら小腹すいちゃったなー!なんかつまもうかな!!よっこいせ!」
アルコール独特の臭いをまとってぐりぐり頭突きしてくる鶴丸を回避し、長義の冷たい視線から逃れるべくわざとらしい声を上げて、さっき見た時とまったく同じように胡坐をかいていた三日月の上に座った。
ここにいれば、例え誰かがアタックしてきても三日月が守ってくれるだろう…という打算だったのだが、突然座ったのに三日月は嬉しそうにしている。
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寒蘭(プロフ) - レイラさん» コメントありがとうございます!そう言って頂けて嬉しい限りです(*´Д`*)これからも頑張ります!! (4月18日 18時) (レス) id: 69f96811e5 (このIDを非表示/違反報告)
レイラ(プロフ) - 初コメ失礼します!結論から言うと泣きました…。いやもう、設定から二代目の事からすごくよく考えられてて凄いなと!!!久しぶりに一気読みしてしまいました。ありがとうございます!番外編も楽しみに読ませてもらいます! (4月18日 1時) (レス) @page34 id: 99fac2651d (このIDを非表示/違反報告)
寒蘭(プロフ) - 千珠さん» 千珠様、たくさんお褒め頂きありがとうございます〜!(*>д<*)楽しんでくださったのでしたら、私としてもこの上ない幸せです!これからも頑張ります!! (2月16日 19時) (レス) id: 69f96811e5 (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - 語彙力がなさすぎてなんてコメントすればいいかあれなんですけど、本当に最高でした!!(語彙力なくてごめんなさい)後日譚の方にも顔を出しに行きます!!お体の方も気を付けながら頑張ってください!!ずっと応援しています!!! (2月16日 12時) (レス) id: 0eaf370a5f (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - 初めまして!初コメ失礼します!この作品を読んでいっき見してしまいました、千珠といいます!寒蘭様の描く物語がとても私の好みドストライクで最高でした!!まさか夢主の父がおじいちゃん(三日月)だったとは…親子の感動の再開の場面で泣きそうになりました… (2月16日 12時) (レス) id: 0eaf370a5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年12月14日 21時