九秋審神者、黒本丸を立て直す 終

第199話 ページ13

愛おしそうに息を吐いて、僕の背を叩く三日月に、鼻の奥がつんと痛くなる。
同時に、どこからか小さな嗚咽が響いた。
波紋のように広がる泣き声や鼻をすする音に、僕は軽く三日月の胸を押して解放してもらう。

それから、首から下げて服の中に隠していたお守りを首からはずし、三日月の手に握らせた。


「…覚えてるかな。僕が、僕の父親である刀剣男士に、母様の形見と遺言を届けるんだって言ったこと」

「あぁ。覚えているとも」

「これが…母様の形見のお守りだよ」

「！そ、それ…そのお守り…僕たちが、あるじさまにって、作ったお守りですっ…！」


溢れる涙を拭い、三日月の手の中のお守りを見た五虎退が、そう言ってまた目尻に雫を溜めた。
隙間を縫って前に出てきた一期やほかの粟田口の面々もお守りを見て、鼻先を赤くしながら確かにそうだと頷いた。


「…そっか…そうだったんだ…
母様ね。このお守り、ずっと持ってたよ。
毎日毎日、このお守りを握りしめて…みんなが元気にしてますようにって、お祈りしてた」


あの日見た、母様の優しい横顔を思い出す。
あの頃僕はまだハイハイもできなくて、それなのにどうしてかずっと意識がはっきりしていて、今も当時のことを鮮明に記憶していた。
僕の中に残る淡い記憶に、五虎退は小さく肩を揺らし、彼を抱きしめた一期に縋り付く。


「ぁ…うっ、ふぅ……ひっ…あるじさまっ…
あるじさまぁ…っ!!」


激しくしゃくり上げる五虎退を強く抱きしめる一期に、ほかの兄弟たちも覆い被さって嗚咽を漏らした。

…まさか、母様がずっと肌身離さず大事にしていたこのお守りが、彼ら粟田口派の手製だったなんて…
死ぬ間際、絶対にこれを持ち帰れと何度も言っていたけれど、そういうことなら先に言っておいてほしかったよ、母様…

もう届かない文句を心中で漏らし、お守りをなぞる三日月に向き直った。


「それ…中に、なにか入ってるでしょ」

「あぁ…これは？」

「それはね…母様の右足の親指と小指、そして左手の薬指の骨が入ってるんだ」


僕の言葉に、三日月が目を見開く。
これが…これこそが、もう一つの母様の形見だ。


「生前母様は、自分が死んだらここの骨だけは、絶対に本丸に持ち帰れ、って…それで…っこれしか…
ごめんなさい…これしか、連れ帰れなくてっ…ひ、っう…ごめんなさい…ごめん、なさいっ…!!」


──人間の体は、二百六本の骨で支えられている。
そのうち、僕が持ち帰れたのは、たったの指三本分だ。

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