第55話 ページ10
「さて、今日の仕事はこれで終わり…と言いたいところだけど、もう少しだけ付き合ってくれない？」
燭台切を見送って部屋の中を振り返り、長義を見やる。
簡易手入れセットを片付けてくれていた彼は、顔を上げると訝し気に眉根を寄せた。
「俺は構わないけど…一体何かな？」
「おいおい、もう霊力はすっからかんなんだろ？
何をするつもりなんだ」
「霊力はまだ大丈夫。だけど…
もう一振り、重傷の刀剣男士がいたはずなんだ。
そのひとで今日は最後にするよ」
長義のそばに寄り、まだ資材は足りそうかと数えつつそう答えると、鶴丸は首を傾げて問いかける。
「もう一振り…？
重傷のやつは全員やってきたんじゃなかったのか？」
「そのはずだったんだけど、ほら。
太鼓鐘だって、手入れ部屋からこっちに連れてきてたでしょ」
「あ…」
「事前に見た資料では重傷だったはずなのに、手入れ部屋からいなくなっていたのは、太鼓鐘と、あともう一振り…
不動行光」
資材にまだ余裕がありそうなので、木箱に蓋をして抱え上げる。
そうしていると、鶴丸は僕の言葉で合点が行ったように拳を掌に打ち付けた。
「おぉ！そういえば、貞坊を手入れ部屋から連れてくる時、不動のことを長谷部と薬研が連れて行った…と、光坊が言っていたな」
なるほど。へし切長谷部と薬研藤四郎…ということは、織田刀の四振りが同室なのか。
この本丸は最近顕現可能となった刀はほとんどおらず、実休光忠もいない。
噂では、あの刀は個体によって結構恐ろしいものもいると聞いていたから、正直まだ顕現されてなくて助かったけど…
「そっか…へし切長谷部がいるのか。
うーん、これまた難易度の高そうな…」
「俺がついて行ってやろうか？」
「いや、余計にこじれそうだからいいよ。
それより、鶴丸は太鼓鐘のこと見ていてあげて」
わくわくした様子で肩を回す鶴丸の言葉をすっぱり切り捨てて、未だ眠り続ける太鼓鐘を示す。
今は大倶利伽羅も燭台切もいないので、彼を見ていられるのは鶴丸だけだ。
そのことにハッとした鶴丸は「そうだな」と緩く笑って、太鼓鐘のそばによる。
「…本当にぐっすりだな。大丈夫なんだよな？」
「うん、大丈夫だよ。霊力が空っぽなだけで、それが回復させすればいずれ起きるから。
そんなに心配なら、僕の霊力分けてあげようか？」
「…は？」
当然の如く三日月に荷物を奪われたので任せながら何気なくそう言うと、途端に鶴丸の表情が強張った。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
