第54話 ページ9
「空を見ろ、もうじき日が暮れる。
このまま続けていては、朝になってしまうよ。
君も、続けて重傷者を手入れした上に解呪もして、霊力を大幅に失っただろう。
今日はもう終わりにして、明日に備えてはどうかな」
長義の言う通り、空はいつの間にか茜色に染まっており、どこからかカラスの鳴き声も響いている。
霊力はまだ余裕があるが、確かにこのまま続けていては朝になるし、そもそも手負いの獣のように警戒している刀剣男士たちを、たった一日ですべて懐柔するのは無理な話だ。
仕方ない、今日はここまでにしようと頷くと、突然燭台切が何かを思い出したように悲鳴を上げた。
「あぁっ！しまった、夕餉のことをすっかり忘れていたよ！」
「ん？ここは燭台切が厨当番なの？」
「あぁ。光坊は、歌仙と二振りでここの厨を統括しているぜ。
そこに日替わりで手伝いのやつが数振り入る」
燭台切の慌てように苦笑した鶴丸は「歌仙と光坊はな、それぞれ系統は違うが毎度絶品の飯を作ってくれるんだぜ」と付け加えた。
なるほど、それはぜひとも食べてみたいな…と騒ぎそうになる腹の虫を押さえていると、ドタバタと部屋を出ていこうとする燭台切が目に入って慌てて止めに入る。
「あっ、燭台切待って！その前に手入れさせて！」
部屋を出ていく寸のところで立ち止まってくれたので、素早く長義に資材の準備を頼んでから燭台切に駆け寄った。
「え、でも僕、そこまで傷深くないよ？
別に後回しでも…」
「言ったでしょ？傷の大きさに関わらず、刀剣男士は負傷したまま長い間手入れされないと、そこからどんどん霊力が出ていくんだって。
今は平気でも、急に霊力が切れて顕現が保てなくなるかもしれない。
料理中に顕現が解けたりなんかしたら危ないし、何より、格好つかないでしょ？」
そういってウインクしてみると、燭台切は一度ぽかんと呆けた顔をしてから、小さく噴き出して楽しそうに笑った。
「ぷっ…あははっ、それもそうだね。
オーケー！それじゃあ、お願いするよ」
「まっかせて！みんなが頑張って集めてくれた手伝い札のおかげで、どんな傷でもすぐに治るから」
燭台切から刀を受け取り、同じ手順で素早く手入れしていく。
傷自体はあまり深くなく、軽傷といったところだったが、やはり霊力が大幅に無くなっていたので、少し僕の霊力を注いであげた。
刀を返した時に妙なものを見る目で凝視されたが、夕餉の時間が迫っているため、燭台切は慌てて出ていった。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
