九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ6)

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第51話三日月の胸懐⑤ ページ6

「はっはっは、散々こちらを信用させようと走り回っていた者に言われたくはないなぁ。
それに、本当に裏切るものは、わざわざ己から裏切るという可能性を提示しないものだ」

「…それもそうかぁ…んはは」

すびっとまた鼻を啜ったAにちり紙を渡すと、遠慮なく出し切るように鼻を吹き鳴らす。
三度ほど繰り返して満足したのか、俯いたまま皮肉めいた音でカラカラと笑った。

「そうだよ。僕、本当に、ただ"いた"ってだけなんだ。
気づいたら異形に囲まれてて、気づいたら馬車馬みたいに働かせられてた。
出来なかったら殴られた。休んだら熱い石炭を押し付けられた。
僕だって…やりたくてやってたわけじゃない。
そうしないと殺されるから。だからやってただけなのにさ」

ぽたり。ぽたり。
Aが吐露するたびに、握られた拳に雫が落ちていく。

「なのに、あいつら…政府の連中ときたら、僕が時間遡行軍にいたからって、人の話聞かないでまるで僕も化け物みたいに扱ってさ…
やっと解放されると思ったんだ。
最初は、先輩…討伐課の審神者に捕まった時は、やっとあんなやつらに従わなくて済むんだ、僕の地獄はこれで終わりだって、思ってたのに…
ただ相手が変わっただけだった。
誰も…先輩以外の誰も、僕のことを人間として見てくれなかった。

だから…この本丸を立て直して、あいつらを見返そうって思ってたんだ…
みんなのこと、利用するつもりだったんだ。
結局…僕なんか、自己中な二代目と何ら変わらない…っ」

「それは違うよ！」

決して顔を上げようとしないまま、俺たちに見られぬよう必死にその手で涙を拭っていたAは、突然力強く発せられた否定の言葉に肩を大きく揺らした。
まさか燭台切がそのようなことを言うとは思わず、俺も鶴丸も、そして山姥切長義も目を丸くしている。

当の本刀といえば、酷く泣きそうに顔を歪めながら、ずいっとAの方へ体を寄せていた。

「君は、絶対に、二代目とは違う！
和泉守くんたちを、鶴さんを、貞ちゃんを手入れしてくれたじゃないか！
そんな怪我までして！霊力だって限りがあるのに…！
本当に僕たちを利用するだけが目的なら、そんな自己犠牲はしないはずだろう!?」

「光坊の言う通りだな」

まるで己の傷のように痛ましげにする燭台切の肩にのしかかり、鶴丸が不敵な笑みを浮かべた。