第93話 神の傍観�� ページ48
「なぜ、ここに…？中間審査をするにしても、この時間にやって来るのは非常識では？」
「まぁ、審査に来たのはそうだがな。
しかし…可愛い愛弟子が死にかけているんだ、駆け付けない師匠などいやしないだろう」
椿と呼ばれたスーツの女は、咥えていた棒付きの飴を口から離すと、男のように勝気な口調でニヒルな笑みを浮かべた。
「…なぜ、彼の状態を把握しているのか聞いても？」
「そいつの眼帯と当て布の間に、小型の盗聴器を仕込んである」
ケロリとした様子で椿が答えると、Aを抱えていた三日月はすぐに眼帯を
すると確かに、眼帯と当て布の間に紙のような薄さの小さな機械が挟まっている。
それを握りつぶすと、薄いそれはぱきゃりと固い音を立てて散った。
「悪趣味だな」
「必要なことだ、なんせそいつは元遡行軍。
あてがった本丸の刀剣男士と手を組み、謀反など起こされたら堪ったもんじゃないからな」
「…ついさっき、愛弟子と言っていたじゃないか」
「あぁ、愛弟子だとも。はは、そんなに憤るな。
元遡行軍だからというのは建前…というか、お偉いさん方の思考だな。
私は単純に、大事な愛弟子がブラック運営で傷ついた刀剣男士たちにとって喰われやしないか、と心配していただけだ」
垂れ落ちた長い一本結びの黒髪をかき上げると、椿は抜刀した鶴丸に肩をすくめて見せた。
椿の隣に立つ三日月宗近といえば、主に刀を向けられているというのに、一切の動揺もなく穏やかな表情で動向を静観している。
その時、同じように刀を椿に差し向けていた山姥切国広が、一歩前に歩み出た。
「あんた、政府の人間だな？名を名乗れ。
そして、こいつについて知っていることをすべて話せ」
肌を刺すような強い殺気を滲ませる彼の様子は、普通の人間が前にすれば到底耐えられるものではないだろう。
その多くは恐怖に身を強張らせ、声も出せず錯乱状態に陥る。
しかし、椿はというと、恐怖に視線を惑わすこともなく、指先の震えもなく、ただ変わらぬ様相で国広の青緑の瞳を眺めていた。
椿は舐めていた飴からまた口を離すと、その花浅葱色の瞳を細める。
「そうだな、まず自己紹介をしようか。
本日より当本丸の担当職員に命ぜられた、歴史修正対策組織中央軍部討伐課所属、第一班班長の椿だ。
そしてこっちが近侍の…」
「三日月宗近だ。よろしく頼む」
椿の目配せで、スーツの三日月がにこりと笑った。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
