九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ45)

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第90話ページ45

僕の言葉で、二振りの間に緊張が走った。
…いや、二振りだけじゃない。遠くでのほほんとしていた三日月も、途端に息をひそめてこちらの様子を窺っている。

そんな彼らに気づかないふりをして、僕は首をこきこきと鳴らしながら付け加えた。

「あーでも、あまり期待はしない方がいいかな。
君らの審神者がいなくなったのは十五年前でしょ？
僕の記憶では、十五年前やそこらに遡行軍に連れて来られて今まで生き残っている審神者は、確か三人くらいしかいなかったはず。
それも、うち二人は男だしね」

「…待てよ。それはつまり、うちの大将以外にも、遡行軍に連れ去られた審神者がいるってことか？」

おや？そこを突っ込まれるとは思わなかったな。
てっきり知っていて話しているものだと思っていたのに。

「そうだよ。年に一人から三人」

そう言うと、その場の空気が凍り付いた。
まるで冷凍庫の中に放り込まれたみたいな底冷えのする雰囲気に、あれ？と首を傾げる。
どうして長義までそんな絶望の表情をしているのだろうか。
…そういえば、この話を椿先輩以外にするの初めてだな。

今話すことではなかったかな…と頭をかきつつ、けれどもう回らない頭ではそれ以上考えることができなくて、思考を放棄したまま言葉を続ける。

「連れてこられた審神者は、その莫大な霊力を使って遡行軍側の戦力となる刀剣男士を延々鍛刀させられたり、休む間もなく手入れに駆り出されたりしてたよ。
ま、"こっち"と違って、手入れすることはあまりなかったけど」

遡行軍は戦に出ると、ほとんど時の政府側の刀剣男士によって破壊される。
だから手入れをする機会なんてほぼないのだが、奴らは顕現してすぐ行う訓練の際、互いを重傷まで負い込むほどの激しい打ち合いをするのだ。
その時だけは、僕も連れてこられた審神者も総出で手入れに入る。
奴ら、数だけは多いからね。一日に一人で数百振り手入れするなんてことはザラにあった。

「…お前は…一体、何なんだ。
なぜ…そんな、遡行軍の重要な機密を、こうもペラペラと漏らす？
お前が審神者になりたい理由は、なんだ？」

掠れた声を捻り出し、唇を震わせる長谷部と視線を交わす。
すると、徐々に東の空から太陽が顔を見せてきた。それが眩しくて目を開けなくなった僕はゆっくり瞼を下ろす。

その瞼の裏に、長く美しい、子猫みたいなふわふわの黒髪を持つ女性の姿が映った。