第89話 ページ44
「さて…何度も言うけど、僕は君たちを害したいわけじゃない。
君たちの傷を癒し、君たちの生活を取り戻し、この本丸を立て直して僕の存在を政府に認めさせ、正式な審神者になる。これが、僕の目的」
「後半は初めて聞いたな」
「そうだね」
「そこ！外野は黙ってなさい！」
真面目に話しているというのに、縁側に座った三日月と長義がどこか他人事のように口を挟む。
それにびしっと指さして指摘すると、彼らは素知らぬ顔で茶をすすった。
…そのお茶、何杯目だよ。
「時間遡行軍が、審神者に？
ハッ、俺たちを馬鹿にすんのも大概にしてくれねぇか」
「馬鹿になんてしてないよ。
というかずっと気になっていたけど、君たちは一つ大きな思い違いをしている」
「思い違い…？」
僕の言葉に訝し気に眉を跳ねさせた長谷部。
薬研も胡乱げな目でこちらを見上げている。
…一応、話を聞く気にはなったらしい。
先ほどまでの、すぐにでも討ち取ると言いたげな殺意は鳴りを潜めているし、僕みたいなもやし人間を相手に膝をついたのが余程精神に響いたのか、刀も握ってはいるが構えていない。
そんな彼らの様子に僕は突き付けていた刀を引きこめ、肩に担いだ。
…疲れすぎたのと血を流しすぎたのも相まって、朦朧としていたからつい無意識にやってしまったけど、後から思い返して国宝を肩に担ぐなんて何やらかしてんだ、と後悔するはめになる。
「僕は確かに時間遡行軍にいたよ。
でも、歴史修正主義者じゃない」
「っ、しかし！産まれた時から遡行軍にいたのだろう？
歴史修正主義者に囲まれて育った人間が、どうしてその対極にある審神者になろうなどと考える？
そんなもの、内側から時の政府を蝕もうとする計略でしかないだろうが！」
切り裂かれた右腕を押さえながら、長谷部が吠える。
まぁ、彼の言い分はよくわかる。僕だって逆の立場ならそう考えていたかもしれない。
けれど…仮にそれが事実だったとしたら、今の僕よりマシだったかもしれないな。
「…少し話を変えようか。
薬研。確か君は、初代の審神者は遡行軍に攫われた可能性がある、って言ってたよね？」
「…それがどうした」
薬研の刀を握る手に力がこもる。
"可能性"としか言えない以上、もちろんそれが絶対とは言えないだろう。
けれど、彼らの反応を見るに、これは数多ある可能性の中で最も有力なもののはずだ。
ならば…
「…僕なら、その初代を探し出せるかもしれないって言ったら──
──どうする？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 177人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
