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第88話 ページ43

距離を取ってこちらを警戒したまま、低姿勢で構える薬研に切っ先を向け、僕は研修中にやった戦闘訓練を脳裏で反芻(はんすう)する。

僕の教育係だった椿さんの戦闘訓練には大まかに二つのパターンがあって、一つは対人、もう一つは対刀剣男士だ。

対人訓練の時に使用する武器は様々で、基本的な体術から始まり、その辺にあるもので対抗する訓練なんてのもあった。
また「近くに使用可能な武器がない状態で顕現が保てなくなった刀剣男士が同伴していた場合」を想定した訓練の時は、政府に所属する様々な刀種の男士が刀を貸してくれた。
…その中で、僕が最も上手く扱うことができたのが、三日月宗近だった。

一方、対刀剣男士の場合。
扱う武器や戦術はほぼ対人訓練と変わらない。しかし一つだけ、それとは大きく異なる"前提条件"が存在する。

それは、「人間が刀剣男士に力で勝つことは絶対に不可能である」ということ。


"「何らかの要因で刀剣男士と戦う必要が出た時、まず勝とうなどという気持ちは持たない方がいい」"

"「なぜなら、我々人間が刀剣男士に勝つことなどあり得ないからだ。当たり前だな、神と人間が同列にいちゃあ困る」"

"「だから、どうしてもそんな状況に陥った時はまず"逃げる"こと。自分ではなく、ほかの刀剣男士に相手を頼め。…まぁ、それはそれで酷かもしれんが」"

"「だが…そうだな」"

"「お前ならば…刀剣男士を相手に、膝をつかせることくらいはできるかもしれないな」"


三日月宗近にコテンパンにやられて地面に転がされていた僕の頭上で、そう言って笑った先輩を思い出す。
当時はそんなことできるわけないじゃん、とか不貞腐れていたけれど…


「…はは、本当に膝つかせられた」

「くっ…!」


地面に膝をつき、肩で息をしながらこちらを睨みつける薬研と長谷部。
最初は薬研だけ相手していたが、長谷部もすぐに参戦してきて結局二対一をするはめになった。
けれど三日月は夜目が効かないから助けを求められないし、長義は重傷寄りの中傷なのでこれ以上頼りたくない。

なので一人で相手していたのだが、なんとか二振りの動きを止めることに成功した。
ちょっと熱が入りすぎちゃって、二振りとも中傷になっちゃったけど…僕もさっきより傷増えたし、お互いさまということで。全身が痛ぇ。

さすがにちょっと血を流しすぎたな…と眩む視界を誤魔化すために、切っ先を二振りの方に向ける。
彼らの背に広がる東の空は、少しずつ白んできていた。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年11月1日 19時

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