第87話 ページ42
刀が弾かれた事により痺れた腕も宙に投げ出され、そうして隙ができた脇腹に回し蹴りをお見舞いする。
さっきは受け止められてしまったが、今度は無事に命中し、長谷部の体が二メートルほど吹っ飛んだ。
やっぱり刀剣男士は体のつくりが違うから、全然飛ばないな…人間なら向こうの塀まで飛んでたのに。
けれど骨は折れたのだろう、地に転がったまま脇腹を押さえて呻く長谷部に心中でもう一度謝る。
その直後に強烈な殺意を浴びて、僕はすかさず背後を振り向き刀で──三日月宗近で薬研の刃を受け止めた。
「おい、どういうことだ…！
なぜあんたが三日月の刀を持ってんだ！
三日月の旦那はどうした!?ッく、」
「三日月ならあっち」
防いだ刀を押し返し、そのまま横に振るって薬研が後ろに飛び退いたのを確認してから、親指で自分の後ろを示す。
指した先に視線を導いた薬研は、そこにあった光景に唖然と目を剥いた。
それもそうだ。なぜなら…
そこにはどこからか持ってきた
…いや、茶はいつの間に淹れてきた？人が必死になってる時に茶をしばくな、こちとらあんたの命握って冷や汗だらだらなんですけど。
どこまでもマイペースなじいさんを振り向いてじっとり睨みつけると、こちらに気づいた彼はにこやかな笑顔で手を振った。
いや、ファンサがほしいわけじゃないんだけどな。
こうも呑気な三日月を見ていると、とんでもなく緊張しているのがバカらしくなってきた…
はぁ〜と気の抜けたため息をついていると、ようやく現実を処理できたらしい薬研が、しかし困惑したまま刀を構え直す。
「三日月の旦那…そこまで、こいつのこと…？
あんた、三日月をどうやってここまで籠絡したんだ？」
「籠絡って、人聞き悪いなぁ。そもそも、それは僕が聞きたいくらいだよ。まったく…
僕だってね、これは本当の最終奥義というか苦肉の策というか、とにかくできればしたくなかったんだけど──っと」
話している最中に斬りかかって来るものだから、仕方なく一旦口を止めて打ち合う。
三日月の太刀は僕の体には大きく、重い。
けれど、不思議なまでに手に良く馴染む。
おかしいな。研修中、椿さんとの戦闘訓練の時に使わせてもらってた、彼…
先輩の相棒である三日月宗近より、格段に親和性が高い気がした。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
