第85話 ページ40
目を伏せたこんのすけに、ぐちゃぐちゃになっていた感情が一つにまとまる。
最初は、油揚げ一つで助けてくれるなんて、少し心配になるくらいチョロいな？と思っていたけれど…
そうか。あの油揚げは、初代との思い出の味なんだ。
「桃明堂は、我々狐の間でこそ有名ですが、それを安易に他人に漏らしたりなどしません。
しかし、それを知っているということは…あなたは、誰かに認められているのでしょう」
「…教えてくれたの、狐ではないんだけどね。
でも…その人、こんのすけのこと"かけがえのない大切な存在"だって言ってた」
僕も遠い記憶を掘り起こしながら、胸に手を当てる。
首から下げて服の中に隠してある
「僕は、初代のような偉大な審神者にはなれないかもしれないけど…それでも、ここの刀剣男士たちを助けたい。だから、力を貸してくれるかな？」
「…もちろんです。桃明堂を知る貴方様なら、必ずやこの本丸を救って頂けると確信いたしました！」
胸を張るこんのすけにありがとうと礼を言って、そっとこんのすけの頭を撫でると、彼はそれをすんなり受け入れてくれる。
桃明堂への信頼感すごいな…と少しずっこけそうになったけれど、ひとまずこんのすけの協力を得ることにも成功した。
問題は、ここからだ。
「それで、どうするつもりなのかな？椿に伝令を飛ばそうか」
「いや、それはやめとこう。
言ったでしょ？別に彼らを告発したいわけじゃないって。そもそも、どうせここで彼らに殺されなかったとしても、失敗したとわかれば向こうで殺されるよ。
だから、最初から意思は変わってない。どうにかして彼らに納得してもらう」
「手立てはあるのか？」
いつの間にかすぐ横まで来て、僕の首の傷を撫でながら三日月が言った。
幸い傷が浅かったおかげでもう血は止まっているが、急に触られると驚く。
いや、こんな近づかれて気づけなかった僕も僕だけど…
三日月の問いに、僕は苦々しく唸り声をあげながら視線をそらした。
「あるかと聞かれたらあるよ。最終手段がね。
けどぉ…んん…正直やりたくない…」
あまり乗り気ではない僕の様子に三日月が目を瞬かせる。
できれば使いたくなかった奥の手だが、ここまで来たら使うしかない。いや、まだ使えるかわからないけれど。
三日月に向き直り、その手を取って目を合わせた。
「三日月。今から僕が言うこと、嫌なら正直に断って」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
