九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ36)

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第81話ページ36

どくん、と心臓が強く脈を打った。
この音が三日月に聞こえてはいないだろうかと不安になるほど、僕の鼓動はどんどん早くなっていく。
しかしそれには触れず、三日月は眉を下げて力なく笑った。

「忘れてはおらぬよ。
だがそれは、可能性の話であろう？単純に、主は現世で忙しくしているだけやもしれぬ」

「…大将が、忙しいという理由で十五年も俺たちを放置する奴だって言いたいのか？」

「そうは言っておらんだろう」

…不味い流れになってきたな。
先ほどまで三日月に気圧されていた薬研の眼差しが、鋭利なものに戻っている。
そんな薬研に触発されてか、長谷部も刀を構え直した。

変わり始めた空気に、僕は後ろ手で三日月の夜着の裾を軽く引く。
それに応えるように、少しだけ抱きしめる腕に力を込められた。
その間にも、臨戦態勢に戻った長谷部と薬研がジリジリと距離を詰めている。

「そいつを渡せ、三日月宗近」

「あんたが死んだら、この本丸も解体されるんだって？
残念だったな、あんたが遡行軍であることが知られれば、時の政府の信用も落ちる…きっと奴らはそれを阻止するために、あんたの存在を消すだろうよ」

薬研の言葉に、それもそうかと気付かされた。
元々、僕の存在は政府の中でも秘匿されており、限られた立場の者しか知らない。
そんな存在が外に漏れれば、政府のやり方に疑心を抱く者は多くなるはずだ。
そうなれば、それを阻止するため、きっと政府は上手く話を作り替えるのだろう。審神者に成りすまして侵入した遡行軍、とでも。

しかしそれには、この本丸の解体を中止せざるを得なくなる。
なぜなら、その筋書き通りなら、ここの男士は悪質な手段で侵入した遡行軍を打ち破った、重要な立場になるからだ。

つまり、常に首の皮一枚な僕では、どう転んでもこのまま生き永らえる手段は多くないということになる。

やっぱり難易度超難任務だ…と改めてゲッソリしていると、三日月は僕を抱きしめていた手を肩に添え、不敵に挑発するように喉奥で笑った。

「渡さん、と言ったら？」

肩に添えられた手が、二の腕に落ちる。
…なんだか嫌な予感がするぞ…
予測できない三日月の思考に内心冷や汗を流していると、薬研の刀が月明かりに反射して煌めいた。

「なら…あんたは謀反人だな」

薬研と長谷部の影が交差する。
スローモーションのように剣先が伸びてくる様子を捉えると、次の瞬間体が浮き上がり、世界が回った。