検索窓
今日:229 hit、昨日:225 hit、合計:43,940 hit

第78話 ページ33

「くッ、そ!」


痛みに悶える間もなく、追撃される予感がしたので素早く地面を転がった。
白玉砂利が打ち付けた左半身に響くが、同時にすぐ横を風を斬る音が追いかけてくる。
攻撃が止んだ一瞬の隙に砂利を掴み取り、立ち上がる拍子に投げつけた。


「ハッ、無駄だ!」


普通の細かい砂利なら目くらましになったかもしれないが、庭を彩るために美しく磨かれた大きな粒が特徴の御影石では、当たったところでちょっと痛い程度しか感じない。
またすぐ刀を振り上げる長谷部から逃れるため、右に飛び退こうとして──

──途端に嫌な予感がひやりと首筋を撫で、僕は本能のまま左へと退路を変えた。

その瞬間、毛先がいくらか散ったと同時に、首元にチリリとした痛みが走った。
何とか距離を取って痛んだ首を押さえると、手の平がぬるりと滑る。

顔を上げれば、こちらを鋭く睨みつける長谷部の隣で、薬研が刀についた血を払い飛ばしていた。
…どうやら、最悪の事態が実現してしまったらしい。


「おいおい、今のも避けるのか。
あんたやっぱり、ただの人間にしては勘が良すぎるな」

「…長義は、どうしたの」


首を押さえたまま、傷が浅いのを確認しつつ薬研に問いかける。
突然のことに必死で、剣戟が止んだことに気づかなかった。

薬研は興味がなさそうに視線を外し、刀をクルクルと回した。


「安心しな、重傷ではないと思うぜ」


重傷ではない、ということは、ほとんど重傷に近い中傷といったところか。
周辺視野にも長義の姿は映らず、その気配も探れない。
彼らが憎むのは僕個人であることから、破壊するなんてことはないだろうけど、ざわりと心が激しく波打つ。

ここで冷静さを欠けば終わりだ。耐えろ。
考えなきゃ。ここからどう巻き返すか。

気づかれないようそっと裏唇を噛み、感情を抑制する。
しかし、無情にも薬研は口の端を持ち上げ、暗い影の落ちた瞳で弧を描いた。


「まぁ、重傷ではないとは言ったが…
──折れていないとは、言ってないぞ」


その言葉で、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われる。
自然と拳に力が集まって気道が狭まり、浅い呼吸を繰り返した。

"折れていないとは言ってない"…?
随分と、回りくどい表現をしてくれる。


「なんで…邪魔なのは、僕だけなんだろ。
なのにどうして、同じ刀剣男士を壊せる?」


頭に血が上り、首に添えた手が生ぬるくなる。
それを嘲笑うように、薬研はこう言った。


「──人間は、その方が堪えるだろう?」

第79話→←第77話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (71 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
178人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年11月1日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。