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第77話 ページ32

目の前の障子が、横方向に両断される。
衝撃で鴨居から外れると、障子はガタンと大きな音を立てて床に倒れ伏した。

真っ二つになった障子が斬られた辺りは、丁度僕の首があった位置だった。


「ほぉ…今のを避けるか」


背後から響いた強い憎悪を孕む声音に、背筋が(あわ)立つのを感じる。
蝶番が錆びた扉みたいにギギッと不自然な速度で後ろを振り向くと、そこには仇敵(あだかたき)を前にしたかのような、憎しみに塗れた瞳でこちらを見下ろす、へし切長谷部が立っていた。


「やーば…」


額に滲む脂汗を拭う余裕もなく、ただ引きつった本音が口をついた。
そんな僕の様子を鼻で笑った長谷部。その刀が揺らいだのが視界の端に映り、反射的に横に転がる。
容赦なく振り上げられた刀は部屋の畳から縁側の床板にかけて大きな傷を作り、それを理解する前にまた首の辺りを狙う横斬りが襲い掛かった。

それを今度は後ろに転がって回避し、そのまま縁側から庭に飛び出す。
転がった先の地面が急になくなって一瞬焦ったけど、無事着地できてよかった。

素足に小石が食い込む。でも、刀の破片がそこら中に散らばっていた遡行軍の本丸より全然マシだろう、と自分を奮い立たせた。

悠然と歩みを進めて縁側に出た長谷部が、月明かりに照らされる。
相変わらず蛇蝎(だかつ)を見るような目で僕を捉える長谷部に、気圧されないよう誤魔化すように声帯を震わせた。


「随分なご挨拶だね、へし切長谷部。
自分が入れた毒が効かなかったからって、八つ当たり?」

「ふん、そんな口を叩けるのも今だけだ…
主に仇成す存在は、俺がすべて斬る!」


否定しないってことは、どうやら僕の予想は当たっていたみたいだ。
けれど今はそれについて気にしている場合じゃない。長谷部はすぐに目の前へ飛び降りながら刀を振りかぶってくる。
それを横に飛び退いてかわし、間髪入れずに続く連撃に身を翻してやり過ごした。

しかし、いつまでもただかわすだけでは埒が明かない。
顔面目掛けて伸びてきた切っ先を寸でのところで避け、刀の棟を腕で弾いて回し蹴りをお見舞いする。
ただ、僕の身長では回し蹴りをしても長谷部の頭に届かないため、あえて少し低い位置に足を伸ばして脇腹を狙う。

だが──


「甘い!」

「うわっ!」


蹴りだした足が掴まれ、バランスを崩した僕はそのまま長谷部の手によって投げ飛ばされてしまった。
ぐるんと視界が回転した直後、左半身が強く地面に打ち付けられる。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年11月1日 19時

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