九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ31)

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第76話ページ31

「時の政府が堕ちた？ハッ、面白い。
生憎と、それには俺も同意見だよ！」

次は長義が薬研の刀を弾き、追撃する。
しかし薬研はそれを難なくバク転でかわして庭へと躍り出ると、挑発するように指をクイッと曲げて手招いた。
それに乗った長義は好戦的な笑みを浮かべ、薬研と同じように庭に走り出して再び刃を交えている。

「長義…時の政府から派遣されてきた君が、同意見とか言っちゃだめだと思う…」

庭で激しく打ち合う二振りを障子の影から見守りながら、堪えきれなかったツッコミを一人で漏らす。どうせもう聞こえてないだろうけど。

長義は討伐課にいた経験があるせいか、少し好戦的ですぐ挑発に乗るところがある。
よく言うと戦向き、悪く言うと戦闘狂…
研修中に長義と組んでからは、デスクワーク続きの彼のストレス発散によく付き合わされてたなぁ…それが僕の戦闘訓練にもなったからいいんだけどさ。

それよりも、と月明かりに照らされながら戦う二振りを眺めつつ、思考を巡らせる。
長義の練度はカンストしているはずだ。しかし、極めている上に練度が四十を過ぎた辺りの薬研が相手では、そう長く持たない。
最初の一撃を防いでもらったら、あとは自分でどうにかするつもりだったけど…長義、久しぶりに強い相手と戦えるからって、楽しんじゃってるな。

まぁそのおかげで時間稼ぎになってるし、いいか。
長義が薬研の相手をしてくれているうちに、どうするか考えよう。

正直、刀剣男士の半数以上は僕が元遡行軍であることに反感を覚えるだろうな、とは思っていた。
三日月や伊達組の反応の方が予想外なくらい。
元だろうが現だろうが遡行軍に関わっていたとなれば、薬研のように斬りかかって来るのが普通である。

その場合はどう対処するつもりだったのか？
ぶっちゃけ、何も考えていなかった。

元遡行軍であることが判明すれば、自然と戦闘が始まってしまうだろう。今もやってるし。
だから、どうにか打ち負かして、でも折らずに手入れして「別に争いたいわけじゃない」とか言えば納得してくれないかな…なーんてふわっとした願望を抱いていたけれど、これはちょっと無理そう。

"彼"がいればな…この状況をどうにか好転させることができたかもしれないのに。
でも、彼は先輩のバディだからなぁ。さすがに連れて来られない。

…次第に長義が押されてきている。そろそろ限界か。
さてどうするかと思案に首をひねると、次の瞬間強烈な殺意を感じて咄嗟に身を屈めた。