第49話 三日月の胸懐�� ページ4
ぶっきらぼうにそう言い放つと、大倶利伽羅は何事もなかったかのように部屋を出ていった。
その後ろ姿を唖然として目で追っていたAは、続いた鶴丸の笑い声にも目を丸くする。
「はははっ、伽羅坊も素直じゃないなぁ。
あいつ、なんだかんだ俺たちのことが大好きなんだぜ？
貞坊のことは特にな。俺や光坊はちとばかし顕現が遅くてな、それまでずっとここの伊達はあの二振りだけだった。
審神者が代わってからも…俺も光坊も盾になることしか頭になくて、あいつらに、ずっと寂しい思いをさせてしまった。
だから…きみが貞坊を手入れしてくれたこと、本当に感謝してるぜ。もちろん、俺のことも。
ありがとうな」
そう言って輝かんばかりの笑みを浮かべる鶴丸の顔をじっと見つめたあと、数度瞬きを繰り返すAに、次は燭台切がおずおずと声を上げた。
「あの…僕からも、いいかな」
ゆるりとそちらに顔を向けたAは、何も言わないまま言葉の続きを待つ。
その様子に薄く生唾を飲み込んでから、燭台切は俯いて視線を下にやるとぽつりと独り言のように語り始めた。
「…貞ちゃんと鶴さんのこと、治してくれてありがとう。
まだ、君のことを主と認めることはできないけど…
前の人みたいな感じでは無いってわかったから」
「…おかしいね。元時間遡行軍ってことには触れないんだ」
ようやく頭が冴えてきたのか、ずっと背を支えていた鶴丸から離れると、Aは額に冷や汗を滲ませてニヒルな笑みを浮かべた。
…不思議だな。確か先ほどまでは、Aの方が俺たちの心を開こうと四苦八苦していたはずなのに、いつの間にか立場が逆転している。
そのことに気づいた時、妙におかしくなって、俺は笑いを堪えることができなかった。
「はっはっは、おかしな事を言うなぁ。代理殿よ。
そこに触れられたくないのは、お前の方では無いのか？」
「…"隠し事はしない方がいい"って言ったの、そっちじゃん」
「あぁ、そうだったな」
つい数刻前のやり取りを覚えていたのか、そう言って唇を尖らせたAにまた笑って、俺は膝をつき彼と目線を同じくする。
そのままその海の色が混ざった銀の瞳を見つめれば、Aはこちらのすべてを見透かすような、それでいてどこか遠くを傍観しているような視線で返した。
どれだけ窮地に立たされようと、目を逸らしたいほどの重苦を前にしようと、決して目をそらさぬ彼は、どことなく初代の審神者を彷彿とさせる…
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
