九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ30)

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第75話ページ30

耳をつんざくような鋭い音が木霊する。
薬研の姿が消えたと思えば、目の前を長義の背が塞いだ。
どうやら、こちらに飛び込んできた薬研の攻撃を防いでくれたらしい。

「なるほど…本丸の維持より、異物を排除する方を選んだか」

「大将が戻ってきても、ここが時間遡行軍に侵されてたら意味がないからな。だったら、例え俺たちが折られようとも…
大将が築き上げたこの場所は、絶対に奪わせない！」

長義の推察に応えると、薬研は長義の刀を弾き、すかさず追撃する。
それに対応する長義は打刀なので特別夜目が効かないということはないが、短刀が相手では分が悪い。
けれど僕が手を出せば確実に邪魔になるので、ひとまず部屋の隅で小さくなっておく。

辺りに響く剣戟(けんげき)の音は静かな夜を切り裂き、このままではほかの男士が起きてしまう。
もしこれで薬研が僕たちに襲われた、なんて証言をすれば…一巻の終わりだ。
いや、その前に、ここで薬研に斬られてしまう方が先かもしれない。

「一応聞くけど、僕が元時間遡行軍だって話は、誰から聞いたの？」

激しい鍔迫(つばぜ)り合いの後、距離を取って互いに睨み合う中に問いかければ、薬研は長義から目をそらさぬまま強張った声で答えた。

「俺が聞いたのは長谷部からだ。
その長谷部は、燭台切の旦那に聞いたらしいがな」

あれか。夕食の時、僕の食事の件で「政府に保護されて」とか「審神者として生かす」とか話していたから、気になって台所を出た後聞いたんだろうな。
どうせそのうち知られると思って口止めしなかったからな…いや、口止めしたところでいつかは漏れて似たような状況になっていただろう。
遅かれ早かれこうなることは確定していたんだ、今更タラレバ言っても仕方ない。

それにしても、どうするかなこの状況…
今までは僕自身ではなく、人間そのものに嫌悪感を抱いている男士ばかりだった。
だから彼らには、僕が無害であることを証明することで、何とか代理を務める許可は得られた。

けれど、今回はそうはいかない。
なんせ、薬研は元遡行軍にいたという"僕自身"を排除するつもりなのだ。
無害だからとか、手入れするからとか、そんなことじゃ彼は納得しないだろう。
それこそ、僕の首を落とすまでは──

「くっ…！」

「なぁ、山姥切長義よ。
時の政府は、一体どこまで堕ちちまったんだ？」

素早い薬研からの攻撃を受け流すのに必死な長義だが、その言葉にはニヒルな笑みを浮かべて見せた。