九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ28)

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第73話ページ28

「…まさか、薬は嫌だなんて言うんじゃないだろうな？」

「ち、違うって！いいから座って、ほら！」

懐疑的な目でじっとり見つめてくる長義に、布団の上をぽふぽふと叩いて示す。
渋々ながらも座ってくれたので、僕は背筋をしゃんと伸ばして長義に向き直った。

「あのね、僕、別に長谷部を告発しようとか、そんなつもりは無いんだよ。むしろその逆」

「逆…？」

眉をひそめて繰り返された言葉を肯定するように、こくりと頷く。

告発がしたいなら、当然物的証拠が必要だ。
なら、例の鈴蘭の水が入ったコップも回収しておくべきだったし、それが入っていたであろうスープも残しておくべきだった。
けれど、それをしなかったのは、ハナから告発するつもりがなかったから。

「何回も言ってる事だけど、この本丸の立て直し計画は今回が最後。これを逃せば、本丸は解体されてしまう。
だから今僕が彼らを告発すれば、その時点で、ここの刀剣男士たちの刀解が決まる。
それは絶対に阻止したいんだ」

僕が毒でも闇討ちでも、とにかく刀剣男士に殺害されてしまうことはつまり、この本丸の終わりを意味する。
全振り中どのくらいがそのことを理解しているのか不明だが、僕はこの本丸をここで終わらせるつもりなんかサラサラ無い。

「だから、僕は死ぬわけに行かない。そのために、長義に手伝って欲しいんだ。
…やっぱり、僕一人じゃ刀剣男士とやり合うのは難しくてね」

結局、頼ってしまうことになるけど…
不甲斐なくなって目を逸らせば、長義はまたため息をついたかと思うと、突然僕の頭をワシャワシャと撫で回した。

「なら、尚更その薬は飲まなきゃだめだ。
少しでも生存確率を上げろ。生半可な気持ちでいてはすぐに死ぬぞ」

「…わかった」

…本当は、この痛みも気持ち悪さも、彼らが受けてきたもののほんの一部だと思えば、何かわかるんじゃないか、なんて馬鹿なことを考えていた。
でも、長義の言う通りだ。

この程度でわかる痛みなら、きっと彼らはとっくに新たな審神者を迎えている。

それからとんでもなく苦くて不味い解毒薬を飲み干した僕は、長義と作戦会議を行った。
僕が鈴蘭の猛毒に耐えたと分かれば、必ず今夜仕留めに来るはず。
ただの嫌がらせにしては、鈴蘭というのは余りにも殺意が高すぎるからだ。

だから、僕の布団に荷物を隠し入れて大きく膨らませ、長義には頭に黒髪のかつらをつけてもらい、カモフラージュをして迎え撃つことにしたのだった。