第71話 ページ26
──時は遡り、僕らが就寝する少し前。
「…今夜、寝首をかかれるかもしれない、と？」
僕のお願いの内容を聞いた長義は、訝し気に首を傾げる。
長義の言いたいこともわかる。「こんな敵だらけの場所で、襲われない訳がない」といったところだろう。
それはそうだし、別に襲われるのが怖いから夜通し守ってくれなんて言いたいわけじゃない。
ただ、このまま夜を過ごすには少し不都合が多いのだ。
「実はね、さっき僕が食べたオニオンスープ、変な味がしたんだよ」
「変な味…？」
「そう。器に盛った後に水でも足したのかなってくらい、すっごく薄くて…それで、草みたいな、土っぽいような臭いがしたんだ」
「…確かに、葉物のスープならまだしも、オニオンスープでそんな臭いがするのはおかしいな。
祖…燭台切が味の調整をミスするのもあり得ないし、そもそも俺が飲んだものは美味しかった」
僕の話を馬鹿らしいと一蹴せず、ちゃんと考えてくれる長義に嬉しさがこみ上げる。
これが政府の連中だったら、さっさと寝ろと布団に投げ飛ばされていたんだろうな…椿先輩は聞いてくれそうだけど。
どういうことだと続きを促す長義に頷いて、僕は宙に向けて突き立てた人差し指をくるくると回した。
「それでさ、僕たちご飯食べ終わったあと、皿洗いしたでしょ？」
「そうだな」
三人でオムライスを食べ終えたあと、僕と長義で皿を洗った。
三日月はあの装束で皿洗いをするのは大変そうだったので、椅子に座ってお茶を飲んでもらっていたのだが…
「その時、流し台にね…
黄色っぽく変色した水の入ったコップが置かれてたんだ」
「黄色っぽく変色した水？」
流し台の隅、覗き込まなければ危うく見落としそうな死角の位置に、まるで隠すようにそのコップは潜んでいた。
長義が見ていない隙にその水の臭いを確かめ、口に含むと、その水はスープから香った妙な臭いと同一の物であることに気づいたのである。
「…何かわからないものを口に含むんじゃない」
「すぐ吐き出したから大丈夫だよ」
「そういう問題ではなくてね…」
「と、とにかく！
あれはきっと、取り換える前の鈴蘭の花瓶に入っていた水だと思うんだ」
「…それが、君のスープに入れられていた、と？」
呆れた顔から途端に緊張感を帯びた長義を真っ直ぐ見返し、しっかりと首を縦に振る。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
