第66話 ページ21
「僕たちは全然構わないよ、むしろご飯食べさせてくれるだけですごーく嬉しい」
ここに来た当初は、食事も自分たちでどうにかするつもりだったのだが、燭台切の厚意で僕たちの分も作って貰えたのは
もし自分たちで作ることになっていたら、どうなっていたかわからないし…最悪、台所が爆発していたかもしれない。
長義は野営の経験もあるし何でもソツなくこなせそうだが、実はちゃんとした料理はあまりしたことが無いらしい。
ちゃんとしてない料理って何？と思ったが、そもそもこの長義は食に対する興味が著しく欠如している個体らしく、食べられるなら何でもいいとのことだった。
そのため、彼の作る料理は中々に雑──いや豪快なんだと、彼の同僚から話だけは聞いている。
僕に至っては、そもそも料理をした経験がない。
野菜の切り方はおろか、コンロの使い方もわからない。
そんな二人が台所に立つとどうなるか？
…料理ができる人間からしたら、酷く恐ろしい現場が出来上がると思う。
しかし燭台切のおかげで、この台所が爆発することはなかった。
「さぁ！準備できたよ！」
席に招かれて座ると、テーブルには美味しそうな料理がたくさん並んでいた。
透き通った赤茶色のスープに、色とりどりの野菜のサラダ、ソーセージとコーンとほうれん草を炒めたらしきものが入った小鉢。
そして、そんな料理たちの中央に鎮座する、どデカい卵焼き。
この卵焼き、本当に大きい。それに、こんな楕円でつるつるの卵焼きなんて見たことない。どうやって作ったんだろ…
よく見ると、真っ赤なご飯が卵焼きを支えている。
…これご飯だよね？なんでこんな赤いんだ…誰かの血？でも鉄の臭いしないしな…むしろすごく美味しそうな匂い…
見たこともない料理の数々に目を輝かせていると、くすりと笑った燭台切がナイフを持ってこちらに近づいてきた。
「オムライスは好きかい？でも、まだ完成じゃないんだ」
オムライスって言うのか、これ…と心のメモ帳にそっと書き記していると、燭台切は手に持ったナイフで卵焼きを端から端まですーっと切って見せた。
すると中からふわとろの卵が、まるで堤防が決壊した川のように流れ出し、あっという間に楕円の皿を満たしてしまった。
「ふわぁー！えっすごい何これ！卵焼きが！とろとろ！」
「卵焼き…？もしかして、オムライス食べたことないのかい？」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
