第48話 三日月の胸懐�� ページ3
「はぁ…ケホ…は……」
「よくやった。優をやろう」
肩で息をしながら太鼓鐘貞宗の刀身を柄に戻していくが、手が震えて目釘が上手く入らないのを見かねて、山姥切長義がその後を務めた。
太鼓鐘貞宗を山姥切長義に託すと、代理殿は正座したままその場にうずくまり、やがてその状態のままころりと横に転がる。
"制約"が発動したことにより絞首され、同時に解呪によって大幅に霊力を奪われたのだろう。
座っていることすらままならないほど消耗した代理殿に近づいた鶴丸は、そっと代理殿の体を支えて起こし、どこからか持ってきた水を差しだした。
「ほら、そんな隅っこで丸まってないで、これでも飲んで落ち着け」
「ん……」
鶴丸が手ずから
その頃には太鼓鐘貞宗の納刀も終わり、山姥切長義はそれを燭台切に渡した。
「今度こそ問題がないか、確認してくれるかな？」
「う、うん…」
太鼓鐘貞宗を受け取ると、燭台切はその刀身をあらわにし、隅々まで点検する。
しかし代理殿の手入れは完璧で、呪いももうなくなっているため問題はなく、燭台切はどこか複雑そうにしながらも「うん、大丈夫だよ」と頷いた。
そのまま燭台切は安静に眠っている太鼓鐘のそばに寄ると、その枕元に本体を安置した。
傷が塞がり、呪いもなくなって霊力が順調に回復しているのか、太鼓鐘の表情は柔らかい。
「…なんで…」
その様子をぼんやりとした様子で眺めていた代理殿──いや、Aは、かすれた声を震わせてぽつりと呟いた。
皆がそちらに視線を向けると、Aはひどく自嘲的に口元を歪め、誰とも目を合わせぬまま言葉を続けた。
「なんで、僕のこと、斬らないの？」
…それは紛れもなく、俺たちに向けられた言葉だった。
Aが元時間遡行軍だと発覚した時、同時に太鼓鐘にかけられた呪いの解呪が行われていた。
その際に生じた"制約"の残酷さと強力さを目にし、山姥切長義からAのあまりに憐れな素性を聞き、ここにいた誰もが抜刀する余裕もないほどに動揺している。
…かくいう俺も、そのうちの一人だ。
「…斬らん」
水を打ったように皆が黙り込む中、そう言ってため息をついたのは大倶利伽羅だった。
「あんたには、まだ治すべき刀がいる。
…それが終わるまでは、斬らないでおいてやる」
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
