第65話 ページ20
「──あれ？鈴蘭だ。珍しいね」
食卓に向かう途中、花瓶に生けられた鈴蘭が目に入って立ち止まる。
鈴蘭の時期といえば春だったと思うけど、今は秋なのにきれいな花を咲かせていた。
「本丸は、付喪神が多くいるせいか半分ほど神域化していていてね。
植物の生育にも影響が出ていて、時期じゃない植物が生ったり、成長が異常に早かったりするんだ」
「なるほど、それで…」
長義の説明に納得し、花瓶に近づいて鈴蘭の花弁を観察する。
白くて丸くて可愛らしいその花は、濁りのない透明な水に生けられていた。
「水、こまめに替えてるんだね」
「あぁ、確かここの花瓶の担当は長谷部だったか。
あやつもマメでな、気付かぬうちに花を替えては、いつもここを可憐に彩ってくれる」
穏やかに微笑んだ三日月の言葉で、意外な刀が担当していたことに驚く。
へし切長谷部って、花とかに興味があるイメージはあまり無いけど、ここの個体は特別花が好きなんだろうか。
鈴蘭はとても生き生きとしていて、とても大事に育てられていることがわかる。
長谷部、さっき僕が手入れした時はずっと仏頂面だったけど、可愛いところあるじゃん。
そんな新たな一面を思わぬところで見つけ、嬉しくなりながら食卓への道に戻る。
しばらく歩いていると、短い暖簾の下がった部屋に辿り着いた。
三日月の先導で中に入ると、そこは小さな台所。
この本丸には、厨当番が交代して朝昼晩の基本の三食を作る"厨"と、各々が好きに酒の肴や夜食などを作る"台所"の二種類の炊事場が設置されている。
こちらは台所の方で、古びた小さなコンロとシンクが壁に向かって置かれ、部屋の中央には年季の入った木製ダイニングテーブルがある。
…なんというか、時代がバラバラすぎて面白い。
台所の雰囲気は昭和なのに、そこにいるのは平安貴族みたいな服装の三日月、黒スーツで身を固めた燭台切、そしてジャージ姿の長谷部。
それに加えてシャツにカマーベストでカッチリ決めてる長義も加われば、ここが平安なのか昭和なのか平成なのか中世なのかわからなくなる。
まぁ、どれも違うんだけど。
「ごめんね、二人とも。本当は食堂で食べてもらうつもりだったんだけど、その…みんなちょっとピリピリしてて」
長谷部と共に食事をテーブルに並べていた燭台切は、申し訳なさそうに眉を下げた。
まぁ、これまでずっと拒絶してきたのに、突然新しい審神者が乗り込んできたんだもんな。無理もないか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 177人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
