第64話 ページ19
まぁ、長義の言うこともわからんでもないけど、と一人頬を膨らませて荷物を整理する。
すると、着替えの間に一枚の紙が挟まっていることに気づいて、怪しく思いながらもそれを取り出した。
メモ帳のページを慌てて切り離したような紙は、柔らかい洋服に挟まれていたせいか少しばかり歪んでいる。
その紙面には、見覚えのある筆跡が連なっていた。
『弟子へ
どうやらうまく行っているようだな。
のこのこと戻ってきたらどうしてやろうかと考えていたが、その必要もなさそうで安心した。
私の教えたことはすべて覚えているな？
近々、中間審査として私がそちらに行く。
それまで、しっかり励むように』
この、勝気な文体からは想像もつかないほどの可愛らしい丸文字…
そんな文字を書くのは、僕の知り合いでは一人しかいない。
「…ねぇ長義。近々椿さんが中間審査に来るらしいけど、知ってた？」
「ん？あぁ…中間審査があることは知っていたが、あの人が来るとは聞いていなかったな」
「僕、中間審査の存在すら知らなかったんだけど。
てか早すぎない？中間の癖に」
「仕方ないだろう、この本丸に外部の者が一時間以上滞在できたのは、俺たちが初めてなんだから」
きっとどこかのタイミングで審査は入るんだろうなと思っていたが、来て一日で審査の予告が来るとは思っていなかった。
しかし長義の言う通り、この本丸の敷地を跨いでそのまま一時間以上滞在できたのは、悲しいかな僕らが初めてである。
異例の事態に時期が早まるのも無理はないか…と納得する。
けれど、まだ男士たちの九割は心を閉ざしたまま。
ようやく心を開いてくれた三日月や伊達の刀たちも、あくまで僕個人を信用してくれただけであって、人間への恐怖心や嫌悪感がなくなったわけではないだろう。
そんな状態でまた新たに別の人間が来るというのは、少し性急すぎやしないだろうか？
これは三日月たちに相談した方がいいな…とまた増えた仕事にげんなりしていると、外から三日月の声が聴こえた。
「雛、長義。夕餉の支度ができたぞ」
「うん、ありがとう。今行くね」
またシレッと雛呼びされたが、どうせ何を言ってもかわされるので僕もサラッと受け流す。
それに長義が
文句は三日月に言ってくれ。
一旦荷物整理を切り上げた僕たちは部屋を出て、「今日は燭台切の得意な洋食だぞ」と楽しそうに笑う三日月の背を追った。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
