第61話 ページ16
「…よし、これでもう大丈夫かな。
しばらくは目を覚まさないと思うけど、しっかり眠って霊力が回復すれば問題ないから安心してね」
無事に手入れも終わり、不動の枕元に彼の本体を安置しながらそう付け足す。
「ありがとうな」
にこやかに笑う薬研と、承知したように頷く長谷部に心臓が委縮する心地になりながら、どういたしましてと返してから部屋の中を見回した。
いると思っていたのにいない姿を探して、二振りに視線を止める。
「そういえば、宗三左文字は？
あの刀も中傷だったはずだけど」
織田組で同室になっているのなら、中傷の宗三も一緒に手入れしてしまいたかったのに、その姿が見当たらない。
厨当番だったのかな…と思いつつ二振りに聞いてみると、薬研は頭を掻いて言いにくそうに視線を彷徨わせた。
「あ〜…実はな、一応この本丸の部屋割りは元主や刀派で分けられているんだが、二代目が亡くなってからはみんな自由にしてんだ。
俺や長谷部の部屋も普段は別のところで、ここはたまに織田の連中で集まる時に使うくらいでな。
宗三は普段、左文字の部屋にいるぜ」
「手間かけさせて悪いな」と苦い笑みを微かに浮かべる薬研に慌てて首を振り、「地道にやるから大丈夫」と力こぶを見せつけるようにして胸を張った。
…まぁ、僕のもやしみたいなヒョロガリの腕に力こぶなんてできないけど。
とりあえずこの部屋にいない宗三は今日は諦めて、薬研と長谷部の手入れを行う。
本当は探しに行こうかとも思ったけど、なぜか長義に鬼のような形相で止められたので、大人しく明日に回すことにした。
なんでそんな怒るんだ…お腹すいてるのかな…
と思っていたら三日月にも穏やかに止められて、どうやら僕の体を案じてくれているらしい。
まだ二十振りくらいしか手入れしてないんだけど、本当に今日はこれで終わりにしていいのかな、なんて不安が頭に浮かぶ。
そのことをこっそり耳打ちすれば、長義はやれやれとでも言いたげにわざとらしく大きなため息をついた。
「百歩譲って、君が一日に数百振りも手入れしていたというのは信じてあげよう。
だが、その頃と今は状況が違う。
滞りなくホイホイ手入れをしていた以前と比べて、今は中々素直にならない刀を相手に霊力も精神もすり減らされているんだ。
もう少し己のことを正しく理解した方がいいな、君は」
「…それ、椿さんにも言われてたな」
この本丸に来る前の研修期間、先輩審神者に何度も言われたことを思い出した。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
