九秋審神者、黒本丸を立て直す弐 (ページ15)

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第60話ページ15

「…で？」

「えっ」

「手入れ、してくれるのか？」

「えぁっ、も、もちろん！」

腕を組んで仁王立ちしていた薬研は、僕の返答を聞くと一つ頷いて「じゃ、頼んだ」とすんなり不動の前をあけてくれた。
長谷部も目を瞑って素知らぬ顔をしており、その上、本体は彼の右側に置かれている。

それはつまり、抜刀する気はないということ。
なぜなら、刀が右側に置いてあると、抜刀するのに一度右手で持ってから左手に持ち替え、それから右手で柄を持って引き抜く手間があるのだ。

薬研も壁に寄り掛かって腕を組み、目を伏せて息をついている。
殺意や警戒心は一切感じない。

…でもまだわからないぞ、手入れ中の隙をついて斬り伏せられるかも…

けれど、せっかくすんなり通してくれたのに、あまり躊躇って不信感を抱かれては本末転倒だ。
さすがに、手入れが終わった後ならまだしも、手入れ中の中途半端な状態で襲ってくることはないだろうと腹を括り、三日月と長義に手伝ってもらいながら簡易手入れスペースを作る。

「…三日月の旦那も、一緒にやってんのか」

「ん？そうだなぁ。この本丸の総大将として、皆の快復を手助けすることは、当然だからなぁ。はっはっは」

快活に笑いながら資材を並べる三日月を横目に、僕は不動の状態を確認しつつこっそり冷や汗を滲ませた。

…これまで巡ってきた重傷部屋の中では、一番すんなりと事が進んでいる。
止められることもなければ、殺意を向けられることもない。
だというのに、この漠然とした不安感はなんだ…？

彼らの気が変わる前に、さっさと終わらせよう。
準備が終わったようなので、不動の本体を連れて簡易手入れスペースの前に座る。

そしていつも通り手入れを進めていくのだが…

「…………」

「…………」

薬研と長谷部からの視線が痛い。
別に殺意を帯びてるとか、圧をかけられているとかでもないのに、どことなく居心地が悪い。

そっと背後の長義に目配せする。
彼も僕の心情を理解できるのか、神妙な面持ちで浅く頷いてみせた。

…初めは僕が斬られてもどうでもいい的な感じだったけど、一応今は味方をしてくれる…のかな。
まぁ、鶴丸や燭台切に信用された今、不用意にほかの刀に斬られると新たな争いの火種になりかねないし、警戒するに越したことはない。

終わった瞬間斬られませんように…と内心祈りながら、こんのすけと息を合わせて本日何度目かの手入れを行った。