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第57話 ページ12

「…俺の方こそ、すまん。
きみは大丈夫だと、わかっているはずなんだが。
どうにも…人の身というのは、不便だな」


気の抜けたようにへらりと笑う鶴丸に、胸がぎゅうっと締め付けられる。
鶴丸も、きっと頭ではわかっているんだ。
もう自分たちに危害を加える人間はいないことを。

しかし、体に染みついた無意識の恐怖は、まだ彼らに根強くしがみついて、苦しめている。
それは、簡単に癒えるものじゃない。


「…鶴丸。もし、不安なことや、怖いことがあったら、いつでも僕に言ってほしい。
言いにくかったら、僕じゃなくてもいい。
ただ、何か心に圧し掛かる重いものがあるなら、それを一人で抱え込むことだけは絶対にしないで。
きっと、鶴丸や、みんなに課せられたその重石は、時間をかけてゆっくり溶かしていかなきゃならない。
でもそれは、放っておけばいいわけじゃなくて、しっかりと着実にほどいていくことが大事なんだ。
そのお手伝いが、僕にもできたらいいな」


鶴丸の頭に降り積もった桜を払い落として、そっと両手を包み込む。
もう、その手は震えていなかった。


「…あぁ、わかった。約束する」


青白かった頬を紅色に染めて、花が咲いたみたいな笑顔を浮かべる鶴丸に安堵する。
これからは、迂闊に霊力をあげるなんて言わない方がいいな…


「で、どうする?太鼓鐘にもあげとく?」

「…いや。貞坊は、あとは霊力さえ回復すれば問題ないんだろう?
なら、不動行光の手入れを優先してやってくれ。
他にも霊力不足で眠ったままのやつらがいるのに、ウチだけ贔屓してもらうのも悪いしな」


そう言って肩をすくめる鶴丸に、僕は曖昧な笑みで返した。
…正直、重傷者が全員目覚められる程度の霊力ならまだあるけど…でも、さっきの太鼓鐘の呪いみたいなイレギュラーなこともあるかもしれないから、余裕があったらやってみようと心の中で完結した。

さて、と膝に手をついて立ち上がる。
もうじき夕飯の時間だろうし、早く行かなければ織田組の食事時間と被ってしまう。
それは申し訳ないので、急いで向かおうと三日月と長義を振り返った。


「それじゃ、またね鶴丸」

「あぁ。また」


部屋から出る前にそう短く交わしてから戸を閉め、三日月に織田部屋への案内をお願いする。
快く引き受けてくれたので、そのまま彼の後をついて行ったのだが、ふと気になることを思い出したのでその背中に問いかけた。

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作者名:寒蘭 | 作成日時:2023年11月1日 19時

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