第47話 三日月の胸懐�� ページ2
「なぜって、そりゃあ──
──僕が、時間遡行軍にいたからだよ」
意外にもすんなり吐いたかと思えば、どこか諦めたような、救いを知らぬような寂しい顔で、その者は太鼓鐘の呪いを剥ぎ取った。
瞬間、その首を一周するように、光の輪が現れた。
それは次第に首との空間を狭めていき、やがてゆるやかに、そして確実に締め上げていく。
呼吸の方法を失った代理殿は、苦しげに短く息を漏らすと、その顔色をどんどん赤く染めていった。
「…どういうことだ。時間遡行軍にいた、だと？」
先ほどまで代理殿に懐を許していたはずの鶴丸が、厳しい声で問いかける。
しかし代理殿に声は届いておらず、代わりに山姥切長義が口を開いた。
「そのままの意味だよ。
彼は、数ヶ月前までは時間遡行軍で斥候として、遡行先の時代の調査や観測をしていたらしい。
その任務の途中で時の政府の討伐課に発見され、保護。
そのあとは、まぁ…尋問という名の拷問を受けた結果、遡行軍の情報はほぼ知らない下っ端ということが判明したため、秘密裏に処理されるはずだった」
「…それがなぜ、ここに？」
続きを促すと山姥切長義は腕を組み、そして依然苦しみ続ける代理殿から目を逸らした。
｢…彼を保護した審神者が、『情状酌量の余地あり』と提案したんだ。
どうも、彼は生まれた時から遡行軍の中にいて、これまでの人生はずっと家畜のように扱われてきたらしい。
本来あるべき場所で生まれず、人間としての営みを奪われ続けた彼もまた、この戦いの被害者なのだ、と。
それで、彼の審神者としての資質を探り、こちら側の不利益とならないか判断するため、試験としてここに送られたというわけだ｣
そこまで話したところで、代理殿の手の中で暴れていた呪いがようやく離散し、同時に首の輪もぱちんと弾け消えた。
｢──かひゅ、ゲホッゲホゴホ、グ、オェ…ッ｣
急激に流れ込んだ空気にむせ返り、代理殿は血の着いた手で首を押さえ、うずくまる。
突如聞かされた、この小さな赤子が歩んだ道のりに、誰もが何も言えないまま動けずにいる。
すると、しばらくひゅうひゅうと浅い呼吸を繰り返していた代理殿は、震える手で燭台切から太鼓鐘貞宗を奪い取ると、そのまま慣れた手つきで手入れを行った。
タイミングを覚えたのか、こんのすけは合図を待つことなく連携し、すぐさま太鼓鐘の傷は塞がる。
呪いも解けたことにより、今度こそは終わりだ。
…代わりに、ほかの問題が現れたが。
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作者名：寒蘭 | 作成日時：2023年11月1日 19時
