63 ページ18
これは一体どう責任とるつもりなのか、だの、もう帰りたい、だの、気分悪いので横になりたいだの、荷物を取りに行きたい、などと、支配人に詰め寄ってる人たちもいる。
警察が急いでる人たちに声をかけている。
「お急ぎの方はこちらへ！お名前とご連絡先をお伺いしますので帰っていただいて結構です！」
「こちらからおってご連絡いたします、申し訳ございません！」
警察の横で女将がペコペコ頭を下げている。
ああ。お気の毒に。
「あ、お茶配ってくれてる人がいる、いってくるよ」
櫻井さんが私の肩をぽん、と触れて歩いていった。
櫻井さんのその背中を見ていたら。
今まで感じたことのない感情がぶわっ、と溢れた。
縋り付きたくなるような、守ってあげたいような、私の中に今まで生まれたことのない、苦しい感じ。
なんだか、息がしづらくなるような。
櫻井さんが従業員の方をいたわるような声をかけてる様子。
お茶を配ってる従業員さんの若い男の子が、泣きそうな顔でペコペコ頭を下げている。
櫻井さんはその子に微笑んでから、お茶を2つ持って私の方に戻ってきた。
私を見てまた少し微笑む。
胸がぎゅーっと痛くなった。なんだこれ。
「ありがたいよね、従業員の人たちも火事による被害者なのにああやって頭下げてさ」
「そうですね」
「ん？どうした？」
私の困った顔に気づいたのか、櫻井さんが心配そうにのぞきこんだ。
「ちょっと、なんか息苦しいみたいな感じ」
「大丈夫？熱は？」
櫻井さんが私と目線を合わせて、私の額に触れた。
「……！」
「どうしたの」
「わ！触らないで！」
「えっ」
思わず顔がカーっと赤くなって手を払いのける。
「お、お金払いますよ！1回1000円」
「よかったいつものAだ」
ドキドキドキドキ。
なんだこれ、なんだこの気持ち！
櫻井さんが壁によりかかるようにして、しゃがみこむ。
隣に座って何となく顔を見たら、櫻井さんがハー、とため息を吐いた。
「アイコの死因……なんだろうな」
「警察の方の言い方だと、パッと見てわかる死因ではなさそうでしたね、血がドパーって感じではない」
「うん、でも触ってわかるレベルの死後硬直ってことは、最低でも3時間以上ってことになる。Aが最後にアイコを見たのは確か」
「露天風呂の6時くらいですね」
「その後、飯食って片付けてもらって……9時以降から、3時までの間に亡くなったということか」
3時。
櫻井さんが部屋を抜け出したのは、そのくらいの時間だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1535人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
松本りいな - 完結おめでとうございます！脳内回転させながらいつも楽しく読ませていただいています♡よしのさんの作品を中学生から読み始めて、今年社会人になりました！これからも愛溢れる素敵な作品を待っています♡お身体お大事にしてください☺︎ (4月18日 23時) (
レス) @page50 id: 714d7c5eb5 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこ(プロフ) - よしのさん、完結おめでとうございます。いつも楽しく読ませていただいています。この探偵シリーズで2人の進展がみられたら嬉しいです！短編でも長編でも楽しみにしています♡無の証明も好きです！いつも素敵なお話をありがとうございます。 (4月13日 23時) (レス) @page50 id: 4eca2027db (このIDを非表示/違反報告)
みず - 完結おめでとうございます！ご婦人の正体、最後までわかっていなくて、読んだ時私も一緒に汗が出てきました(笑)最近よしのさんを知り、過去作品を漁って日々楽しく読ませていただいています！ (4月9日 20時) (レス) @page50 id: 90243a1d25 (このIDを非表示/違反報告)
うぉーるなっつ(プロフ) - 完結おめでとうございます！そして素敵なお話をありがとうございます！なんとなく読んでいる中に様々な伏線があり、最後の終わり方含めさすがよしのさんです！！改めて頭から読み直そうと思います👏そしておふたりの探偵物語も首を長くしてお待ちしています！ (4月9日 20時) (レス) @page50 id: 9a0230b096 (このIDを非表示/違反報告)
奏稀(プロフ) - 完結おめでとうございます！最後の展開に興奮が止まらないです…！！素敵なお話をありがとうございました😊 (4月9日 12時) (レス) @page50 id: c1b9d68e3d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2024年1月31日 12時
