Flowerwall (ページ31)

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「こういう個展って...初めて見るかも」

絵画やオブジェ、様々な作品が立ち並ぶ空間。

『この個展を開くのに十三年かかったわ』

「十三年！？」

『この個展を開くために作り続けて、ようやく思い通りの物ができたから今回開いたの』

「へぇ～」

ゆっくりとターニャは私のペースで回らせてくれた。

『彼は制作スピードがものすごくゆっくりなの。その時間が最高な瞬間を作る、そう教えてくれたわ。焦れば焦るほどボールに移る、それを教えてくれたのも彼ね』

彼女は、すごく優しい顔でそう言った。

ターニャにエピソードを聞きながら作品を見る。
そして最後に目にした作品に思わず息を呑んだ。

「すごい、これ壁いっぱいに......」
　
スペースのど真ん中にそびえ立つ壁のオブジェ。
高く、存在感を放つ壁には一面色鮮やかな花が咲いていた。

花の壁は、まるで私の不安を突きつけるような威圧感と、それでいて希望を与えてくれるような幸福感を併せ持っていた。

本物の花ではないことに気づく。
写真や本のページのようなものを千切って立体的な花そのものの形になるように作られていた。
そうやって作られた花が壁一面だ、一体どれだけの時間を費やしたのか。

『あの人、家中の写真を千切ろうとするんだからかなり怒ったわ。足りなくて本を破いて、新聞集めて破いて...結婚式の写真は死守したけど』

「それは、嫌だね」

『でも、どんな感情も思い出も、全て花として咲かせることができるって伝えたかったみたい。私も感化されちゃって、これは唯一二人で作った作品なの』

そう言ってターニャは笑った。

最後に、ターニャは奥の部屋を案内してくれた。

『彼がいるから』

部屋を覗くと、一人の男性が腰掛けて絵を描いていた。その絵を見て、小さく声が出た。

「あれって......」

少し離れたところにいるターニャに声を掛けると、彼女は首を横に振った。

『あれは完成するまで見ないって約束してるの』

「......そっか」

彼の最愛の人を描いた作品。
誰よりも待ち望んでいるターニャは照れ臭そうに笑ったけど、その笑顔は一番綺麗だった。

「なんかいいね、そういうの」

『Aにはそういう相手いないの？』

「強くしてくれる人ならいる、かな」

帰る直前に部屋から出てきた個展の主に、花の壁の感想を伝えると、彼は額縁を一つくれた。
受け取ると、鉛筆か何かで描かれた、花の壁のデッサンだった。

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